甲子園を奪われた2020年の高校球児に密着。作家・早見和真が見た世界
2020年の高校球児は歴史上、類を見ない存在
作夏、新型コロナウィルスの影響によって中止となった2020年、夏の甲子園。球児たちが号泣する姿をテレビで見た方も多いだろう。自身も元高校球児として野球に青春を捧げた、作家・早見和真氏は昨年夏、愛媛県の済美高校と石川県の星稜高校に密着し、彼らの夏に迫ったノンフィクション『あの夏の正解』(新潮社)を上梓した。早見氏は彼らを通じて甲子園をどのように見たのか……。野球系のノンフィクション作家・松永多佳倫氏がインタビュアーとして、早見氏の思いを聞いた。 ⇒【写真】早見和真氏、松永多佳倫氏 ――2020年春夏甲子園大会が中止になった3年生たちが“高校野球”を引退するにあたり、各々の心の揺れ具合がリアルに描かれており、非常に感慨深く読ませていただきました。早見さんはどういった思いで、彼らを取材し、書籍化にしようと思ったのでしょうか。 「高校野球という存在は、圧倒的な同調圧力と上意下達によって100年間守り続けられ、その結果、いびつなものにもなっていったのだと僕は思っています。そして、その同調圧力と上意下達の先にあるものが甲子園だと思っていました。 みんなと同じ空気を纏って、上からの命令に従えば、甲子園に行けるんだという共通認識によって育まれていくもの、これが“従来の文法”で語られてきた今までの高校野球だと捉えていました。 ですが、2020年の3年生に限って言えば、大前提となる甲子園がなかった。つまり“従来の文法”で語ることができないという歴史上類を見ない高校球児であると本気で思ったんです。この思いが彼らを取材するきっかけでした」 ――なるほど。“従来の文法”なしで話せる選手に出会いたかったというわけですね。 「僕の現役時代と同じように、思いがあっても言葉が出てこないという子は多かったですが、なんとか自分の言葉を紡ぎ出そうとしてくれました。そうやって必死に自分の言葉を紡ぎ出そうという声に出会いたかったんです。 だから、取材にあたって1つルールを作りました。『あいつはどう言っていましたか?』と質問してくる選手の声よりも、なんとか自分の声を絞り出そうとする選手に重点を置きたいなと」