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外資系Amazon、意外にも「それは私の仕事じゃない」は禁句

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幻冬舎ゴールドオンライン

あなたは、アマゾンという企業をどのくらいご存じだろうか? 日本でのサービス開始当初「世界最大のオンライン書店」と称されていたアマゾンは、わずか20年弱で「GAFA」と呼ばれる4大IT企業の一角にまで発展した。その驚くべきビジネス戦略や如何に。アマゾンジャパン元経営会議メンバーで現在は、kenhoshi & Companyの代表としてコンサルティングを手掛ける星健一氏の著書『amazonの絶対思考』(扶桑社)より一部を抜粋し、「内側から見たアマゾン」を解説する。

アマゾン「リーダーシップ・プリンシプル」の内容は

過去の連載では、アマゾンのビジネスモデル、アマゾンプライムプログラムや楽天市場と比較した場合の強みなどの分析を通し、アマゾンの「絶対思考」はどのようなものなのかを解説してきた。ぜひ、詳しいことは拙書『 amazonの絶対思考 』(扶桑社)を読んでいただければありがたい。 そして前回は、『 絶対王者アマゾン、努力や根性に頼らず重視した「14の基準」 』と題し、アマゾンの行動規範でもあり企業文化の骨幹でもある「リーダーシップ・プリンシプル」の概念を紹介した。本記事より前後2回に分け、それぞれの項目について、私自身が経験した事例などを交えて解説していく。読者の方々の会社でも、色々な行動指針、規範があると思うが、それを社員、メンバーに伝え、コーポレートカルチャーのレベルまで持っていくには、継続した地道な教育が必要だ。その際には、社内での実例をベースに伝えるのが最適だと考える。 1 Customer Obsession――顧客中心の判断基準は妥協するな 「Customer」は「顧客」、「Obsession」は「こだわり」や「熱中する」という意味で、アマゾンの顧客中心主義を示している。リーダーシップ・プリンシプルの14項目には特に番号は振られていない(本連載では読みやすいように振った)が、一番最初がこの「Customer Obsession」で、最後が「Deliver Results」つまり「結果を出す」であると決められている。顧客目線で発想して、結果を出すことが重要ということだ。そして、アマゾンが求める「結果」とは、たんなる売上や利益の拡大だけではなく、スケーラビリティの獲得、つまり「成長」と定義されている点が大切だ。 つまり「Customer Obsession」そのものが、アマゾンが追求している「Results」でもある。顧客中心主義そのものはさまざまな企業でも同様の理念を掲げていることも多いだろう。ところが、目先の利益が出ないといった理由で少なからず妥協してしまうことが多いのではないだろうか。私の経験でも「大切なのは顧客」という明確な判断基準によって、迷走しそうになった議論が軌道修正されたことがしばしばあった。 アマゾンが掲げる「Customer Obsession」とはどういうことか。具体的な事例を挙げてみよう。 代表的なものは顧客による商品レビューだ。その商品に対する使用後の感想を、いいことだけではなく、メーカー、サプライヤーが嫌がる低い評価内容も記載している。顧客が客観的に判断できる材料を隠すことなく提供している。余談だが、そのレビューも今や、やらせレビューなどの温床ともなっており、アマゾンの取締り施策と販売事業者とのいたちごっこになっており、信頼性の低いレビューが多数紛れ込んでいるのは悲しいことである。 また、ある年のクリスマスシーズンに在庫管理のミスからか、顧客のクリスマスプレゼント需要を受注したが、在庫の割当が出来なくなった。当時の倉庫のスタッフが実店舗を探し回って同じ商品を見つけ、顧客まで自分で届けたこともあった。 さらには、私が家電を担当する事業部も含んだ、ハードライン事業本部の統括事業本部長だった時代に、家電商品が生産中止やモデルチェンジによって廃番になってしまうことがあった。まだ在庫管理の自動化が発展途上だった頃、ある家電廃番商品に在庫を超える数の注文を受けてしまったのだ。 普通のストアであれば、注文のタイミングが遅かった顧客に連絡をして「在庫切れです」と断ればいいという判断になるだろう。でも、アマゾンでは違う。その時はバイヤーや発注担当者に指示をして家電量販店や現金問屋などを片っ端から当たり商品を調達し、コストを度外視してでも注文してくれた顧客に商品を届けることを選択した。 これらの例はもちろん、アマゾン側のミスをカバーするものであり、美談ではない。ただし、背景には、「Customer Obsession」という行動規範があったからこそ、上司などの指示を受けなくてもメンバーが行動することができたのだ。 次のケースも、もともとはミスに対する対応だ。定価が1000円ほどの商品をプロモーションで900円で販売しようとする際に、担当者が誤って販売価格を「90円」と入力してしまったことがある。当然、またたく間に多くの注文が入った。気付いた担当者があわてて価格を修正したものの、多くの顧客が90円でオーダーできてしまったのだ。 こうしたケースでも、通常の日本企業であれば事情を説明して注文を仕切り直すだろう。でも、この時のアマゾンは90円で購入した顧客に事情を説明した上で、そのまま商品を出荷した。もちろん、損失金額にもよりケースバイケースでの判断ではあるが、アマゾンにおいては顧客の信頼に応えることが何よりも優先されることを示す事例といえる。 もちろん、アマゾン社内での日々の仕事の中では利益や売上も重要なテーマではある。でも、最終的な判断基準が「Customer Obsession」であることは、アマゾニアンにとって世界共通の常識となっており、幾度となくこれに立ち返り、自分たちが間違った判断をしないよう軌道修正をした経験がある。 常に顧客の目線で行動するのは簡単ではない。企業は利益を出さなければ存続できない。そのような中、トップ、経営層が率先して「Customer Obsession」を貫き通すことによって他メンバーが迷いなく行動できることになる。このような経営層の気骨も重要だと考える。 2 Ownership――「それは私の仕事ではありません」は禁句 アマゾンでは「社員全員がリーダーである」という考えが徹底されている。そう、リーダーシップ・プリンシプルのリーダーはマネージャー、管理職のことを言っているのではない。そのためには全社員に「Ownership」が不可欠であり「それは私の仕事ではありません」といった視野の狭い言い逃れは禁句となっている。外資系企業のイメージは、個々の仕事の領域が決まっており、それに対し責務を全うし、パフォーマンスを出せばいいというイメージを持っている方も多いかもしれない。しかし、実際は少なくともアマゾンはそのようなことはない。 アマゾン社内では「Cross Functional(クロスファンクショナル)」という部門間を越えてという意味の言葉が、ことあるごとに飛び交っている。当然、社内の部署は機能ごとに分かれているし、マネージャー、バイスプレジデントといった職務レベルは存在している。 私がチームメンバーにクロスファンクショナルな仕事を与えるのと同様に、私自身も自身の責任範囲とは異なるタスクを担うことがたびたびあった。たとえば、他部門の採用をリードをする役割を担い、10年間で1000人もの面接を行なった。また、東日本大震災の際には2011年から2014年の4年間で41回、延べ1001人の社員が参加した東北地方でのボランティア活動を率いたこともある。両事例ともに継続性が求められ、強い「Ownership」がなければできないことだ。 新たなイノベーションやプロジェクトを構想する際には、ことに部署や職能を越えた連携や判断が必要になることがある。一人一人の社員に「Ownership」の精神が浸透しているからこそ、アマゾンは常に進化を続けてこられたといえるだろう。 さらに、前述した通り、管理職でなければプロジェクトのリーダーになれないといったことはなく、他部署を巻き込み、肩書きを越えて議論し、仕事を進めていきやすい風通しのよさが社内のカルチャーとして根付いている。 3 Invent and Simplify――常に創造性とシンプルさを求める 直訳すると「創造と簡素化」という意味になる。説明文にあるように「イノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、常にシンプルな方法を模索」することがアマゾニアンには求められているのである。 シンプルで合理的な仕組みであることは、アマゾンの強みとして書籍内でも紹介してきた。アマゾンが提供するサービスなどに常に「Simplify」が要求されるのには主に三つの理由がある。 一つは、シンプルでないと「顧客にわかりづらい」こと。シングルディテールページの徹底などは、まさにこの概念を具現化した施策といえる。二つ目は、複雑な仕組みであればあるほど「継続性が生まれない」こと。三つ目の理由が、複雑になると何かミスが起きたときに「リカバリーしにくい」ばかりでなく「ミスを見つけづらい」からである。 もちろん「Invent」である以上、何か新しいことを始めるのは常にチャレンジであり、なかには社会に誤解され、非難に晒(さら)されることもある。よくある「低価格戦略は競合潰し」といったアマゾンへの批判も、そうした誤解の一つといえるだろう。 その上で「長期間にわたり外部に誤解されうることも受け入れます」と言い切っているところも、アマゾンがアマゾンたる所以(ゆえん)である。ただし、これは「誤解されても気にしない」という意味ではない。誤解や批判は受け止めた上で、間違いがあれば改善する。それには抵抗がない組織である。しかし、「Customer Obsession」と「Deliver Results」の観点から正しいことであるなら信念をもって継続するという決意である。 もちろん「Invent and Simplify」を、さあ、今日から実行しなさいと言われても、はいそうですかとできることではない。重要なのは「Invent and Simplify」を社内のカルチャーとして根付かせることであり、アマゾンでは「Invent and Simplify」だけをテーマとしたクロスファンクショナルのワークショップ、研修、イベントなどをしばしば開催している。また、半年に一度、イノベーティブな業績を残した社員を「Door Desk」賞として表彰する制度もある。 結果、この文化からAlexa(AIスピーカー)、Kindle(電子書籍リーダー)、Fire TVスティック(テレビのインターネット接続デバイス) 、AWS(クワウドサービス)、Amazon GO(レジ無しコンビニ)などが次々と生まれた。

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