葛葉、叶、Rain Drops、月ノ美兎……音楽シーンで存在感を高める「にじさんじ」アーティストの現在
VTuber/バーチャルライバーグループ「にじさんじ」に所属する月ノ美兎をはじめ、RainDropsや葛葉、叶など、この1~2年でアーティストとしてメジャーデビューする事例が続いている。「にじさんじ」は、多種多様なインフルエンサー100名以上が所属するVTuber/バーチャルライバー界の一大勢力。フリートークやゲーム実況といった配信コンテンツは様々で、なかでも歌唱動画は人気コンテンツの一つだ。「にじさんじ」所属ライバーたちが参加したオリジナルフルアルバム『SMASH The PAINT!!』(2020年3月18日発売)は、オリコン週間アルバムランキング7位(2020年03月30日付)。カバーアルバム『Prismatic Colors』(2020年10月28日発売)は、オリコンデイリーアルバムランキング1位(2020年10月27日付)を獲得するなど、音楽シーンでも注目を集めている。 【画像】ライブで堂々としたパフォーマンス披露する葛葉 緑仙、三枝明那、童田明治、鈴木勝、える、ジョー・力一によるボーカルに特化したライバーユニット・Rain Dropsは、ミニアルバム『シナスタジア』(2020年5月13日)で<ユニバーサル ミュージック>よりメジャーデビュー。男性、中性、女性の6名で構成され、少女からピエロまで年齢もキャラもバラバラという、ライバーだからこそ結集できるユニットの魅力を発揮している。『シナスタジア』リード曲「VOLTAGE」は、彼らの始まりを意識したエモーショナルな歌詞を、6人の特徴的なボーカルで表現。その絶妙なハーモニーを聴いただけでテンションが最高潮に上がる、ハイボルテージな一曲となっている。また、Ado「うっせぇわ」も手掛けたsyudouが作詞・作曲・編曲した「蜜ノ味」は、Rain Dropsのダークな一面を引き出した。また、2ndミニアルバム『オントロジー』(2020年11月25日)のタイトル曲では、走り抜けるような疾走感が心地い仕上がりに。そのほか、6人のボーカルワークが堪能できるバラード曲「雨言葉」など、6人だからこそできる幅の広い楽曲に挑戦し続けている。童田明治が「にじさんじ」脱退に伴い、4月にグループを卒業したが、シンガー特化型のグループとして今後もバーチャル分野の音楽シーンを活性化していくだろう。 月ノ美兎は、1stシングル『それゆけ!学級委員長』(2020年10月7日)で<ソニーミュージック>からメジャーデビュー。見た目は清楚な学級委員長キャラだが中身は超サブカル女子高生というキャラを持つ人気ライバー。3Dモデルの動画収録が一般的だった当時のVTuber界において、Live2Dモデルでライブ配信を行う革命を起こし、それ以降のVTuber増加のきっかけにもなったと言われている。「それゆけ!学級委員長」は、月ノが以前からファンと公言しているササキトモコが作詞作曲を担当。彼女の活動や人となりが詰め込まれた歌詞を、地声をそのまま活かしたボーカルで表現した痛快な楽曲だ。1stアルバム『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』(2021年8月11日発売)は、収録曲それぞれの方向性が異なるエレクトロポップのコンピレーションアルバムのような印象で、リード曲「ウラノミト」では叙情的な旋律と歌声を披露。アイドル性もありながら、ウィスパーボイスを駆使した大人テイストの楽曲に魅了されたファンも少なくないはずだ。 ミニアルバム『Sweet Bite』(2022年3月9日発売)で<ユニバーサル ミュージック>からメジャーデビューを果たした葛葉は、男性VTuberとして初めてチャンネル登録者数が100万人を突破。「親の甘い蜜を吸い続けるニートのゲーマー吸血鬼」というキャラ設定で、ゲーム実況配信をメインに活動しているが、Kanaria「KING」のカバーは現在3,400万回再生を突破するなど歌い手としても人気が高い。カバー曲では妖艶な歌声を聴かせてきたが、初のオリジナル曲「コントレイル」では、疾走感あるロックナンバーをチョイス。ソロライブイベントでBUMP OF CHICKENやUVERworldといったロックバンドの楽曲をカバーしていたこともあったが、「コントレイル」で響かせる爽やかな歌声は歌手としての新たな可能性を感じさせた。『Sweet Bite』は、葛葉にとって主な活動時間である「夜」をテーマに制作。収録曲「甘噛み」は、葛葉が敬愛するシドの明希(Ba)が作曲と編曲、マオ(Vo)が作詞を担当。いかにもシドらしいメロディアスで物語性のあるロックが葛葉の声に絶妙にマッチし、ヴァンパイア風の見た目の雰囲気も相まってV系バンドとの相性の良さを感じさせた。 2022年7月27日に<Lantis>よりミニアルバム『flores』でメジャーデビューすることを発表した叶。浮世離れした記憶喪失の青年という設定で、あざとかわいい癒し系ボイスで人気を集めている。ゲーム配信を中心に展開するライバーだが、力強くかつ透き通った歌唱力が特徴的で、歌ってみた動画も多数投稿している。また、葛葉とのユニット・ChroNoiR(クロノワール)としても活動し、葛葉のクールな歌声に叶の癒し声が重なり、気持ちの良い男性のユニゾンを聴かせてくれる。普段から2人は仲が良く、オリジナル曲「ヘテロスタシス」や「Geminids」のMVなどを見ると、それぞれのキャラクターのミステリアスさ、2人の掛け合いが実にエモーショナルで魅惑的だ。デビューアルバム『flores』から先行配信されたリード曲「ブロードキャストパレード」は、ピアノの旋律に乗せて叶の癒しの歌声が重なり、まさにパレードやサーカスのような幸せな気持ちにさせる、ユニットとは違った叶の可愛さに特化した楽曲となった。 そのほか、樋口楓、森中花咲と御伽原江良のユニット・petit fleurs、森中花咲(ソロ)、鷹宮リオン、葉加瀬冬雪、フレン・E・ルスタリオのユニット・▽▲TRiNITY▲▽などがメジャーデビュー済み。また、7月27日に葛葉、叶と3マンライブを行うユニット・ROF-MAO(加賀美ハヤト/剣持刀也/不破湊/甲斐田晴)は、2022年4月13日に自社レーベルからリリースした1stミニアルバム『Crack Up!!!!』が、オリコン週間アルバムランキングで初登場1位を獲得し、「にじさんじ」所属ライバーとして初の快挙を達成した。 数多のライバーを抱え、日本のバーチャルタレント分野の一角を担う「にじさんじ」。事務所自体のブランド力もありつつ、個々人の発信力が絶大で、アップするカバー動画やオリジナル曲はYouTube上でいずれも高い数字を記録。同じ事象は、大手VTuber事務所の「ホロライブプロダクション」にも当てはまることだが、ここまで存在感を見せつけるとメジャーレーベルが意欲的に動き出すのも納得できる。メタバース、VR、バーチャルライブなど、仮想現実でのエンタメが流行を見せる時代の中で、「にじさんじ」をはじめとするバーチャルアーティスト/アイドルの勢いはますます高まっていきそうだ。
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