魔性の女・令和のナオミに溺れた中年男が見つけた〝生きる意味〟 「痴人の愛」
若者たちの決断うながす青春映画
見逃せないのは譲治の周囲に、やはりシナリオ講座に通う若者たちを配していることだろう。その青春群像も切ない。彼らは、はなやかな世界にあこがれているようなのだが、実際には何に対しても本気になれなかったり、失敗するのが怖くて新しい一歩を踏み出せなかったり、自分自身を客観的に見ることができなかったりしている。いわば、決断できずにいつまでも踊り場にいるような感じだ。この若者たちに対しても、ナオミは深い影響を与えているように見える。決断できない男女に人生の次のステージへ進むように促しているのではないか。このあたり、青春映画としても楽しめた。ただ、青春を描いているといっても、しめっぽくはない。クールで乾いている。さわやかで、切れ味がいい。切実で、かなしいのだけれど、吹っ切れていて、テンポがいい。そんな演出がとてもよかった。 譲治を演じた大西信満は屈折した日々を過ごす、もう若くはない男を好演。彼がためらいがちにナオミに手を伸ばしたり、シナリオが書けなくてもんもんとしたりしている姿は表情が豊かだ。アルバイトで懸命に力を込めて便器をきれいにするようすも印象的で記憶に残った。まじめさ、いちずさがよく伝わってくる。ナオミを演じた奈月セナは長身と長い手足で存在感がある。自由で気まぐれで、時には包容力があり、時には自分勝手な女性を熱演している。さっそうとした容姿がこの映画の魅力をよく示している。
文芸評論家 重里徹也