完璧主義デビッド・フィンチャー、こだわりぬいたハリウッド黄金期の再現
2020年12月に入ると、ハリウッドでは来年の賞レースに向けてさまざまなバーチャルイベントが始まった。Netflixは非営利の文化団体アメリカン・シネマテークと組んで、アカデミー賞ノミネートに期待がかかる、『Mank/マンク』のデヴィッド・フィンチャー監督を招いた特別イベントを開催。イベント内でフィンチャー監督は、本作で取り組んだこだわりの一部を明かした。 【動画】Netflix『Mank/マンク』予告編 映画史における最も偉大な作品とも言われる不朽の名作『市民ケーン』の舞台裏を、オーソン・ウェルズと共にアカデミー賞脚本賞を受賞した脚本家ハーマン・J・マンキウィッツの視点で描く本作。フィンチャーは今回、父親ジャック・フィンチャーの手掛けた脚本の映画化に挑み、「黄金期」と呼ばれる物語の舞台、1930~40年代のハリウッドを描くのに、当時の映画を再現したモノクロ映像を選択した。その理由についてフィンチャーは、脚本が大きく影響したと語る。
「僕の父は、ひどい子供時代をすごした。その多くはアル中の父親が原因で、土曜日は朝の11時から夜の6時まで、映画館ですごすことになった。それで映画が大好きになったんだ」と明かしたフィンチャーは、「父の文章は、ちょっと映像にしにくい面があった。月明かりのなか、2人の人間が動物園で歩きながらただ会話するシーンを、上手く描くのは難しい。それで映画全体を、(父親が観ていた)白黒時代の要素で包もうと思ったんだ。多くの人はこの手法は大変だったのではと思うけど、このやり方が僕を楽にさせてくれたんだ」
当時の映画の雰囲気を伝えるために、音声もモノラルを選択したが、完全主義で有名なフィンチャーはそのスタイルをさらに推し進めたと語る。「(音作りは)チャンネル数やスピーカーの数で決まるんじゃない。それで何をするかなんだ。僕らは最初、モノラルでミックスをするわけだから、3日か4日で終わって、何も大変なことはないと思っていた。でも、高校時代に名画座で観た映画のことを考えるようになったんだ。昔の映画館の音が、どういったものだったかのかをね。それを再現するために、僕らはモノラルでミックスしたLCR(左、センター、右のスピーカーの音)を大きなスタジオ内で流して、その音をもう一度録音することにしたんだよ」