窪田正孝「今はモノに興味なし。家の中はすっからかんで人間関係も断捨離中です」
── 窪田さん演じる清沢賢二は、愛する妻とふたりの娘がいて、念願のマイホームを購入し、絵に描いたような幸せを手に入れています。ところが登場人物のそれぞれの心の中には、表からは見えない闇や秘密が隠されています。演じてみて、賢二という役柄についてはどう感じましたか? 窪田 僕が演じた賢二が、実は一番、家庭を壊しているんですよね。それでも、自分では理想の家族だと思いこんでいて、自分の本音には都合よくフタをしている。実はその中に幼児期のトラウマがあって。これ以上はネタバレになるので言いませんが、そのズレみたいなものを一歩踏み込んで考えていくと、けっこう表面的な見え方とは違うものが浮き彫りになってきて、自分の中では、それで(賢二に)アクセスできたのかなと思いました。 きっと人ってそれぞれに様々なトラウマを抱えて生きているんだと思います。いつも思うのは、いろんな作品でいろんな人間像が描かれていても、人って「子どもの頃にどういう家庭環境にいたか」というのが、くさびのように、その人にくっついているんだなって。今回の作品にもそれがまざまざと書きなぐられてるような気がします。
人間は便利になるほど退化している。だから自然の中で暮らしたい
── この一見、幸せそうな家族についてはどう思いましたか? 窪田 理想の家って何だろうって考えると、自分たちの理想なのか、外から見られた上での理想なのか、それは(理想を)築いている柱が違うんですよね。そして、それを作っているのはやっぱり親なんですよ。それがどんどん子どもにも伝染してくる。だから教育ってむずかしいなぁと思います、僕は子どもはいないけど(笑)。
─ 窪田さん自身にとっての理想のマイホームはありますか? 窪田 理想というのはないですね。ただ、希望という意味では、自然の森の中にひとつ佇む家に暮らすのが理想です。人がいない、自然がいっぱいあるところに行きたいんです。これは実際に思い描いています(笑)。東京じゃないかな、と。 人ってどう生きるかで、その人の軸が決まると思うんです。身に纏う服や食べるものとか思考も、いろんなものがその人の行動に出てくると思うんだけど、今は、携帯とか機械的なものでどんどん便利になるなか、気づかないうちに人間が退化していってるように感じて。人と向き合う時間とか価値が、どんどん下がっている気がするんです。だからこそ、自然の中で暮らしたいなっていうところに繋がるんですけど。 ── 話を映画に戻しまして、齊藤監督からは、ご自身が俳優ならではのアドバイスや演出はありましたか? 窪田 やっぱり役者の気持ちを誰よりもわかってくれているっていうのがすごく大きかったですね。冬のすごく寒い時期に仙台で撮ったんですけど、現場で温かい味噌汁を出してくれたり。そういう気持ちがうれしかったです。あとは極力、順撮りにしてくれたこともそうだし。一番は子役たちへの配慮で、子役の子が昼寝しちゃったら、無理やり起こしたりしないで、「はい、大人たちもお昼寝タイム」って、小一時間ぐらい起きるまで待つんですよ。最高の現場だなって思いました(笑)。日本人は良くも悪くも真面目すぎるけど、本来、これが普通なんだなって。そういうストレスを与えずに、現場づくりをしてくれたのは齊藤組ならではの温かさを感じました。