ソフトバンクが「1兆円赤字」から一転、「3兆円黒字」に転じた「本当の理由」
ソフトバンクグループが日本企業としては過去最大となる3兆円の純利益を上げた。同社は2020年3月期に創業以来最大となる1兆円の赤字を計上したばかりだが、1年も経たずして最高益に転じた。これは同社が事実上、投資会社に変貌したことが最大の要因であり、この話はソフトバンクグループだけとどまるものではない。全世界的に産業構造の劇的な変化が進んでおり、従来型利益の概念は徐々に通用しなくなりつつある。 【写真】「ペイペイの毒」に潰されたキャッシュレス企業…その残酷すぎる末路
投資会社の利益と事業会社の利益は異なる
ソフトバンクグループは2021年2月8日、2020年4~12月期の決算を発表した。純利益は前年同期比6.4倍の3兆551億円と過去最高を記録した。今回の決算は第3四半期のものだが、第3四半期ベースでも通期ベースでも過去に最高益を上げたのはトヨタ自動車であり、いずれも2兆円台なのでソフトバンクの利益水準は日本企業にとって未踏の領域ということになる。 しかも同社は2020年3月期の決算では約1兆4000億円もの営業赤字を計上しており、そこからわずか9カ月で空前の利益を上げた。一部の投資家はあまりの落差に驚いているが、こうしたジェットコースターのような業績になってしまう最大の理由は同社のビジネスモデルにある。 同社はかつては出版やソフト流通、携帯電話の通信サービスなどを手がける事業会社だったが、近年は10兆円ファンド(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)を組成するなど、投資会社に変貌しつつある。投資会社の業績というのは、一般的な事業会社とは異なり投資した会社の時価総額に大きく左右される。 成長途上のベンチャービジネスなど一部の例外を除き、一般的な大手事業会社では、業績悪化後のリストラなど特殊要因がない限り、いきなり利益が10倍になるといったことはまず起きない。だが投資会社の場合、投資先企業の評価額が上がると、こうした事態が容易に発生する。 昨年の年末以降、ポストコロナ社会への期待感から、GAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コム)と呼ばれる巨大IT企業を中心に、先端企業の株価が急上昇している。これに伴って同社の投資先企業である配車アプリのウーバーや滴滴(ディディ)など次世代型IT企業の評価額が大幅に上昇し、一気に3兆円もの利益を計上する結果となった。 ちなみに2020年3月期において1兆4000億円の赤字に転落した時には、シェアオフィス事業を手掛けるウィーワーク(ウィーカンパニー)など投資先企業がコロナ危機で減損を余儀なくされたことが原因だった。 いずれにせよ、これは評価益、評価損という財務上の利益や損失に過ぎず、実際に同額のキャッシュが入ってきたり、流出した結果ではない。投資ビジネスというのは最終的に損益を確定しない限り、こうした財務上の利益で評価され続けることになる。