発達障害の増加で「児童精神科の待機問題」が深刻 通常学級の11人に1人、特別支援学級の子も倍増
通常学級の11人に1人が発達障害
今、発達障害のある子どもたちが増えている。学校でその可能性を疑われ、受診を促されて病院に行こうとすると数カ月待ち、予約が取れないということも珍しくない。特別支援学級への編入可否の判断や、学校・自治体で必要な支援を受ける場合も診断書が必要であることがほとんど。また、発達障害だけでなく精神障害や摂食障害、不登校なども増加しており、児童精神科のニーズは増える一方、その窓口自体が少ないという。その現状と課題について、国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科診療科長の宇佐美政英氏に話を聞いた。 児童精神科を受診する子どもの疾患で発達障害の次に多いのは?【表】 学習面や行動面に困難さがあるなど、発達障害の可能性のある小・中学生は8.8%、11人に1人程度在籍している――。2022年に文部科学省が公表した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」結果は、世の中に大きな衝撃を与えた。35人学級であれば1クラスに3人いる計算になる。また特別支援学級に入る児童生徒数も増えており、この10年で倍増している。 発達障害の子が増えている背景の1つとして、05年に発達障害者支援法が施行され、発達障害に対する認知が広がったことが挙げられる。これまでは「やる気が足りない」「家庭のしつけが悪い」と思われていた子も、専門医療機関の受診を勧められることが珍しくなくなっているのだ。発達障害の特性は見られるものの診断までには至らないグレーゾーンの子も増えており、児童精神科は今パンク状態で、受診を希望しても初診まで数カ月かかるというところも少なくない。 こうした現状について、児童精神科として日本で最も長い歴史を持つ国立国際医療研究センター国府台病院(以下、国府台病院)の児童精神科診療科長・宇佐美政英氏は次のように話す。 「国府台病院でも、いちばん多いときで年間800人の子どもの初診を受け付けていました。そのときでほぼ1年待ちの状態。ただ、1年待つとなるとキャンセルも増えますし、クレームもあります。そのため今は1カ月分の受診しか受け付けないようにしています。中には、学校に勧められて受診したが、発達障害ではないことを証明してくださいという方もいます。しかし、正常と診断することは最も難しく、本当に発達障害なのかどうかも、じっくり診ていくしかない場合が多いのです」 日本の学校は一斉授業が中心で、立ち歩くことは許されず、授業中は席に着いておとなしく先生の話を聞いていなければならないことがほとんどだ。学校生活の中でも「○○してはならない」といった規範が多く、通常学級で個別に対応することは難しいため、集団行動になじめないと、発達障害なのではないかと疑われてしまう。 学校から勧められて受診してみたものの、納得がいかないという保護者も多くいる。そのため児童精神科では、親の不安を整理してあげることも必要になる。また受診するにしても、「どこの病院でもいい」とはならない保護者が多く、ネットで検索をして、評判のいい病院で診てもらいたいと考えれば、待機してでもと思うのが親心だろう。また、発達障害は近年、日本だけでなく世界的にも増えているという。 「米疾病対策予防センター(CDC)の報告では、1975年に5000人に1人だった自閉スペクトラム症が、今や36人に1人いると推計されています。私が子どもだった頃は、自閉症という言葉を耳にすることすらありませんでしたが、なぜここまで増えたのか――。子どもたちのライフスタイルが変化したことに加え、医学的な診断が広まるとともに認知度が上がったことが大きいと考えられています。例えば、注意欠如・多動症(ADHD)は全体の5%、子どもが20人いれば1人いる最も出合うことが多い発達障害の1つです」 【2023年09月11日12時03分追記】 通常学級における発達障害の可能性のある小・中学生の人数の割合について、一部誤りがあったため見出しを含めてその部分を訂正しました。