受動喫煙被害、国の対策で大丈夫ですか? 厚生労働省の元担当官に聞く紆余曲折の内幕
ママさん一人のスナック・バーぐらいならと妥協したが...
ーー当初案の「30平方メートル以下」という例外基準は、なんらかの根拠があって出している数字だったのですか? むしろ狭い店の方が煙の濃度は高くなるので、受動喫煙の害は大きくなると思いますが。 当初案と言いますが、最初に議論していたのは、面積基準も設けず全ての飲食店を屋内禁煙にする案でした。せいぜい喫煙専用室を作るんだったらその中で吸ってもいい、という案で、2016年10月に厚労省のたたき台という形でまず出しました。 それをベースにして自民党の厚労部会で何回か議論してもらったのですが、全く埒が明かなかった。例外がほとんどない案でまず公表したが、それではどうにもならないから塩崎大臣が考えたのが30平方メートル以下を例外とする案です。 「ママさんが一人でやっているような30平方メートル程度のバー、スナックだったら、お客も固定客だし、元々たばこを吸いに来ているような客だから、禁煙にするのも厳しすぎるだろう」という判断でした。 その案で、2017年3月に厚労省案として公表したわけです。でも、それでも全く立ち行かなくて、とにかく先生方に説明して回れということでぐるぐる回りましたが、みなさん「この程度じゃダメだ」という反応でした。
専門家の意見や議員の失言 影響なかった
ーー当時、受動喫煙の健康被害を訴える専門家が議論に参戦していました。がん患者団体も、規制を緩めたら、健康被害を予防できないと声をあげていましたが、規制強化の後押しになりませんでしたか? メディアもかなり頑張って報じていました。 がん患者団体のご意見やマスコミによる報道はいくらか効果があったかもしれませんが、先生方の考えを変えるには至らなかったですね。 ーー喫煙者は2割程度で全体としては少数派です。煙を嫌う人の方が日本ではマジョリティなのに、なぜ世論をリードする声にならないのでしょうか。 喫煙者もですが、今回の法改正による規制の場合、一番影響を心配したのは飲食店です。議員の先生方が休みに地元に帰ると、地元の飲食店の組合などが、先生方を訪ねて行って、「この法案だけはやめてくれ」と陳情していましたから。それが一番影響力があったのでしょうね。 ーー飲食店も一斉に全面禁煙にしたらみんな横並びですから、自分たちだけが損するということはないはずです。どこも禁煙にすれば、自分だけ売り上げが落ちるということにはなりません。それなのに、なぜあれほど頑迷に反対していたのでしょうか。 それは、かなり説明したのですが、懸念を払しょくするまでに至らなかったですね。 ーー海外でもこれほど反対が強い国はあったのですか? イギリスでさえパブを屋内全面禁煙にしたのに、なぜ日本だけこんなに反対の声が強いのかと思いました。 そこはよくわかりません。ただ、段階的に規制を強化していった国があることは承知しています。 ーー健康増進法の改正案を議論している時に、政治家の失言がいくつかありました。自民党の大西英男議員が、受動喫煙の被害を訴える三原じゅんこ議員に、「(がん患者は)働かなくていい」と、衆議院の厚生労働委員会で参考人として呼ばれた肺がん患者に穴見陽一議員が「いい加減にしろ!」とヤジを飛ばす問題が起きました。あれはマイナスに響かなかったのでしょうか? 多少マイナスには働いたかもしれませんが、規制に反対する声を吹き飛ばすまではいかなかったのでしょうね。