藤沢市が「道路境界線」設定ミスで大騒動 対象住宅は取り壊しに、建基法「接道義務」を改めて考える
容易ではない木密解消
都市計画区域外が後に都市計画区域に指定されることは珍しくないが、その際に接道義務を満たしていない建物は既存不適格となるだけで、住宅を建て替えなければ接道義務に反していても問題にされることはない。 とはいえ行政は、災害対策を名目に道路の拡幅に力を入れている。特に、東京都は首都直下地震の備えとして木密の解消に努めている。木密は接道義務を満たしていない住宅が多いとされているため、大規模災害時には甚大な被害が想定されるからだ。 しかし、木密の解消は容易ではない。木密解消には、家屋(住民)の移転を伴う。住まい移転は代替地や金銭的な補償の問題もあるが、それ以上に長らく住んできた家から転居することに抵抗を感じる高齢者が多いからだ。 木密解消は1軒1軒に対して移転交渉を進めつつ、歳月とともに空き家が増え、その空き家を解体して道路を広げるしかない。道路の規模や周辺住民の理解なども大きく左右するが、その歳月は最低でも20年。道路の拡幅は、歳月と根気の勝負でもある。 近年は、木密以外でも道路の幅員が重要になっている。東京や大阪といった大都市の都心部ではタワーマンションが多く建っているからだ。こうした大規模住宅や大規模商業施設は、災害時を想定して多くの人が一斉に避難できるルートを確保しなければならない。そのため、通常よりも厳しい接道義務が課されている。それらは条例で定められるので、自治体ごとに細かく異なっている。 東京都の例をあげれば、延べ床面積500平方メートル以下の学校・病院・百貨店・集合住宅などに対して、東京都は公道に間口が4m以上接していなければ建築することを認めていない。 延べ床面積が3000平方メートル以上で15階以上のある大規模建築物はさらに厳しい制限が加わり、幅員4mの公道でも接道義務をクリアできない。大規模建築物の場合は、幅員6m以上の公道に間口が10m以上接することを課している。 周辺地域や建物から俯瞰(ふかん)すると、道路は単に自動車や自転車、歩行者が通行するためだけのインフラではないことが理解できるだろう。道路は私たちが生活を快適・安全に過ごすため、そして企業・商業施設・工場が安心・安全な経済活動をできるように多面的な機能を内包している。
小川裕夫(フリーランスライター)