カヴェンディッシュがドゥクーニンク移籍、サンウェブの新スポンサー発表… ロード界ニュースまとめ
新型コロナウイルスの影響により、レース開催にとどまらずオフシーズンの動きも例年よりゆっくりとした印象。だが、12月を迎えたこともあって来季に向けた選手・チームの動向はいよいよピッチが上がってきた。そして、このタイミングで去就が注目されていたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、バーレーン・マクラーレン)の移籍決定や、充実度が増すチーム サンウェブの新スポンサー決定といった明るい話題が続々と届いている。今回は、そんなビッグニュースの数々をまとめてみよう。来年のレースシーンがより楽しみになるトピックばかりだ。 カヴェンディッシュ古巣へ帰還の内実 12月5日、ドゥクーニンク・クイックステップはカヴェンディッシュの加入を発表。カヴェンディッシュにとっては、エティックス・クイックステップの名でチームが活動していた2015年シーズン以来となる古巣への帰還となる。 2007年のプロデビュー以降、ツール・ド・フランスでのステージ優勝は30回を数え、2011年にはUCIロード世界選手権で優勝を飾るなど、スプリンターとして一時代を築いた。出身地・マン島にあやかって“マン島超特急”と称されたフィニッシュ前の爆発的スピードは、長きにわたって平地系レース・ステージでは敵なしのイメージを抱かせたほど。 ただ、第1ステージ勝利でマイヨジョーヌ着用の夢をかなえた2016年シーズンを境に、そのスピードと勝負強さに陰りがみられるようになる。翌年にはエプスタイン・バール・ウイルス(伝染性単核球症)に感染すると、以降のシーズンで再び同じウイルスに罹る不運も経験。落車での戦線離脱も増え、2018年2月のドバイ・ツアー第3ステージ以来勝利を挙げられずにいる。 今季はバーレーン・マクラーレンで復活を目指したものの、目立った成績は残すことができず。74位で終えた10月11日のヘント~ウェヴェルヘムでは、レース後に「これが最後のレースになるかもしれない」と涙ながらに語ったことが報じられ、現役引退との見方も強まっていた。 そんな一度は感傷的になっていたカヴェンディッシュだが、レースに対するモチベーションは下がっていなかった。その内実をドゥクーニンク・クイックステップのマネージャーであるパトリック・ルフェヴェル氏が明かす。 10月21日に開催されたAGドリダーフス・ブルージュ~デパンヌ終了後、カヴェンディッシュがルフェヴェル氏のオフィスを訪れ、「このままでは辞められない」と述べたという。とはいえ、ルフェヴェル氏からすると、すでに来季の陣容がおおむね固まった状況で、長い不調とはいえ実績は申し分なしの彼のために使える資金は残っていなかった。そこで一度は受け入れを断ったというが、ここへきて状況が一変したという。 それは、カヴェンディッシュ自ら、スポンサーを引き連れてドゥクーニンク・クイックステップ復帰を目指せる状況を作り出したこと。これによって、チームはカヴェンディッシュに給料を支払えることとなり(実際はそのスポンサーがカヴェンディッシュに支払うものとみられる)、電撃的に来季加入が決定したのだ。 これからの焦点は、UCIワールドチームきっての戦力を誇るチームにあって、カヴェンディッシュがどのような立場で走っていくことになるか。ここ2シーズン、グランツールから遠ざかっており、今年のツールでポイント賞のマイヨヴェールを獲得したサム・ベネット(アイルランド)らと対等に渡り合うことも実情としては難しい。ルフェヴェル氏ら首脳陣は、ベネットやアルバロ・ホッジ(コロンビア)といったスプリンターたちの良きお手本や精神的支柱となることを期待しているとするが、果たして。 チームのスポーツディレクターの1人、ブライアン・ホルム氏はカヴェンディッシュ帰還を歓迎しつつも、厳しい見方もしている。「まずはプロとして最初からやり直すべき」と述べ、「少しずつチーム内での序列を上げていかなければならない」と、層の厚いチーム内でしっかり力を発揮していくことを求める。加えて、「ツールを走ることは想像できない」と現状に則した意見をし、「自らの価値を証明したうえで、小さなステージレースから勝つチャンスを得てほしい」とする。 何より、これまでの活躍から誰も彼に対して「ノー」といえない空気感があることをホルム氏は問題視。同氏自らが「“黙って私の言うことを聞きなさい”と言わなければならない」と、カヴェンディッシュのフィジカル・メンタル両面での復活のために“鬼”になる意向を示している。 6年ぶりのチーム復帰に、「この喜びは言葉では言い表せない。本当にわが家に帰ってきたような気分だ」とコメントしたカヴェンディッシュ。完全復活まではいばらの道となりそうだが、それをも覚悟のうえでの最強チーム加入であるはず。来シーズンをいかに戦うか、彼自身も、そしてチームとしても真価を問われることとなる。 チーム サンウェブが新スポンサー獲得 「チームDSM」に チーム サンウェブは、新たなタイトルスポンサーとしてオランダに本社を置く化学企業・DSM社を迎えることが決まり、2021年シーズンからは「チームDSM」として活動する。 これは12月4日にオンラインで行われたチームプレゼンテーションにおいて明らかにされたもので、黒と青という新しいチームカラーに染まったニューデザインのチームジャージも披露している。 DSM社は1902年設立の国営炭鉱会社が前身で、1029年に化学肥料事業への進出をきっかけに規模を拡大。1996年に完全民営化となり、現在はライフサイエンス分野を中心に事業を展開。先端技術を有する各国のベンチャー企業への投資も積極的に行っているという。なお、東京都内には日本法人「DSM株式会社」があり、健康・機能性食品・飲料、動物飼料用ビタミン、カロテノイド、化粧品原料の販売を行っている。 チーム サンウェブとして活動した今季は、マルク・ヒルシ(スイス)とセーアン・クラーウアナスン(デンマーク)がツール・ド・フランスでステージ優勝。これで勢いに乗ると、ヒルシはラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝、リエージュ~バストーニュ~リエージュ2位、UCIロード世界選手権3位と完全にトップライダーの仲間入り。ジロ・デ・イタリアでは、ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア)が個人総合2位と大躍進。20歳代前半から中盤の選手が多く所属し、ヤングパワーでプロトンを席巻した。 新生・チームDSMとなる来年は、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)を筆頭に6選手が加入。スプリンターのマイケル・マシューズ(オーストラリア)や、ジロ個人総合3位のウィルコ・ケルデルマン(オランダ)ら4選手が移籍するが、チーム力低下の心配はなさそうだ。 来シーズンは、スコット社のバイクに跨ることがすでに発表され、チームジャージはビオレーサー、チーム車両がボルボとなることも明らかに。バイクに搭載されるコンポーネントは従来通りシマノ社。そのほか、今年までのタイトルスポンサーであるサンウェブ社も、チームスポンサーの1つとして引き続き名を連ねることも決まっている。 サーカス・ワンティ・ゴベールも新スポンサー獲得 来シーズンのUCIワールドチーム昇格が濃厚なサーカス・ワンティ・ゴベールも新スポンサーを獲得。フランスに本部を持つスーパーマーケットチェーン「インターマルシェ」がメインスポンサーとなることが決まり、新チーム名を「インターマルシェ・ワンティ・ゴベール」とする。 インターマルシェは1991年にベルギーでの店舗展開を始め、現在は同国南部のフランス語圏・ワロン地域を中心に78店舗を運営。特徴として、郊外に広大なスペースを確保し、食料品・家電・雑貨など幅広いジャンルを取り扱う複合型のマーケットであることが挙げられる。また、同社では多彩な独自ブランドも持つ。 チームは先ごろ、CCCチームが持っていたUCIワールドツアーライセンスを買い取っており、第2カテゴリーであるUCIプロチームからのステップアップが決定的。これにともなって戦力アップも図っており、ルイス・メインチェス(南アフリカ、NTTプロサイクリング)ら7選手の加入を含む27選手の所属が決定している。 UCI規定でタイトルスポンサーは3つまでとされている関係から、今季チーム名に冠されたサーカス社は外れることとなったが、チームスポンサーとしては継続が決まっている。こうした順調な資金確保もあり、チームは不安なく来年の戦いへフォーカスできる状況が整った。 今週の爆走ライダー-クリストファー・ローレス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 「爆走ライダー」とは… 1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。 現チームでの3シーズン目を終えて、来季からはトタル・ディレクトエネルジーへと移籍する。11月には発表になっていたが、さほど大きくクローズアップされなかったからか、一部のサイクルメディアでは「ひっそりと移籍が決まった」と報じられてしまった。 当初は来年もイネオス・グレナディアーズで走る予定だった。昨年のツール・ド・ヨークシャーで個人総合優勝を果たし、チーム内での評価は一気にアップ。その秋には2年の契約延長に合意し、順風満帆のキャリアを歩めると自身も期待した。 ただ、そんな気持ちとは裏腹に、今年は思うような成果が得られなかった。パンデミックによってシーズンがイレギュラー化したとはいえ、得意の平坦系レースでチャンスを与えられながらも結果を残せない日々。グランツールを軸とするチーム事情とマッチできない自分自身にジレンマを感じていた。 思い切って、1年残して現チームとは契約を解除。次なる環境は、チームカテゴリーこそ下がるがそんなことは問題ではない。これまでのキャリアを振り返り、「自国や英語圏のチームでしか走ったことがなく、言葉の面でも楽をしがちだった」と述べ、いまこそ違った環境に身を置くべきと判断。これからはフランス語をメインにチームでの活動を行うが、「これは未知への飛躍。今は楽しみで仕方がない」と新たな仲間への合流を心待ちにする。 ひっそりと言われてしまった移籍だが、走りで結果を残せば良い。これからの役割はまだ分からないというが、スプリントや石畳系クラシックが主体となるだろう。ニキ・テルプストラ(オランダ)や、自身と同じく移籍で加わるエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)らと一緒に走れるのもうれしい。「彼らから学んで、それが勝利に結びつくと信じている」。やる気に満ちている。 12歳のときに買ってもらったアルミバイクをきっかけに飛び込んだ自転車の世界。「マウンテンバイクやトラックレースにも挑戦してみたのだけれど、一番フィットしたのがこれだった」というロードレース。25歳となって迎える新シーズンは、キャリアにおいてターニングポイントとなり得る1年といえそうだ。 福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ) サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU」