風邪に抗生物質って効果ないの? 抗菌薬の使用に潜む危険性
薬の「効かない」細菌が増えている
抗菌薬は、昔から人間を悩ませてきた病気の原因となる細菌を殺すための薬です。たとえば結核菌は、日本でも1950年まで年間10万人の死亡者が出ていました。このような感染症を撲滅するため、製薬会社も薬になる物質を発見しては、抗菌薬に変え、治療に役立ててくれていました。その効果は絶大で、抗菌薬が登場する前は、出産のときや怪我の傷口などから細菌が体に入り込み、命にかかわることも珍しくなかったのですが、現在ではそのようなことはめったにありません。しかし、抗菌薬が気軽に処方できるようになったいま、薬の効かない細菌(耐性菌)を増やしてしまっています。 前の方で、抗生物質は細菌の縄張り争いのために細菌がつくっている物質だということをお伝えしました。私たちのすむ世界は、肉眼ではまったく見えないけれど、細菌たちに満ちています。細菌にもいろいろ種類がありますが、同じ菌の中でも薬がとてもよく効く細菌と効きにくい細菌が共存しています。 必要のない多くの人たちが特定の抗菌薬をどんどん飲んでいったらどうなるのでしょうか? その抗菌薬は私たちの体に吸収され、薬が効く菌を殺してくれます。しかし、中には薬が効かず、生き残る細菌、耐性菌がいます。この耐性菌たちは、薬が効く細菌が死滅したおかげで、栄養分や場所を独り占めすることができます。そうして、どんどん増えていきます。そして、尿や便、汗などのさまざまな経路を通じて体の外に出て行くのです。抗菌薬を飲む人が増えるほど、外の世界で、薬が効く細菌と耐性菌の割合が、徐々に崩れていきます。 実は、これは人間の間だけで起きていることではありません。私たちの身近な、家畜のまわりでも起きています。私たちの食べるブタやウシ、ニワトリは、定期的に、低濃度の抗菌薬をエサと一緒に食べています。成長を促し大きく育てるために、飼料添加物として加えることが飼料安全法により認められているのです。そして、作物にも農薬として塗布されていることが多いです。しかし、先ほど同様、抗菌薬を使うほどに、耐性菌は増えていきます。