Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

全米を揺るがすブラック・ライブズ・マター運動、創始者に聞いた「女性の力」

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
ナショナル ジオグラフィック日本版

犠牲となる特定の人種、特定の性自認を持つ人々を救う:アリシア・ガルザ氏

「Black Lives Matter(BLM、ブラック・ライブズ・マター)」運動の共同創始者であるアリシア・ガルザ氏が行動を起こそうと決意したのは、2013年7月のこと。17歳の黒人少年トレイボン・マーティンが射殺された事件で、ジョージ・ジマーマンが無罪判決を受けたことがきっかけだった。 ギャラリー:米国、暗黒の人種差別史、リンチ殺人が横行 写真と図18点(閲覧注意)  活動家兼作家として米国カリフォルニア州に拠点を置くガルザ氏は、判決への不満をフェイスブックに投稿。抗議の輪を広めようと訴え、投稿をこんな言葉で締めくくった。 “Black people. I love you. I love us. We matter. Our lives matter. Black lives matter.”(黒人の皆さん。私はあなたがたを愛しています。私は私たちを愛しています。私たちは尊重されるべきです。私たちの命は尊重されるべきです。黒人の命は尊重されるべきなのです)  この呼びかけに、フェニックスのオパール・トメティ氏とロサンゼルスのパトリス・カラーズ氏(ともにガルザ氏と親しい活動家)も賛同、カラーズ氏は「#BlackLivesMatter(黒人の命を尊重せよ)」というハッシュタグを付して拡散した。  ガルザ氏の言葉に端を発する人種差別への抗議運動は、全米へと拡大した。  現在はBLMの活動のほか、全国家事労働者連盟のスタッフとしても働くガルザ氏。クィア(性的マイノリティー)の黒人女性を公言する彼女の目標は、警察による暴力の認知度を高め、その犠牲となる特定の人種、および特定の性的指向や性自認を持つ人々を救うことだ。  2020年3月刊行の書籍『Women ここにいる私』から、アリシア・ガルザ氏へのインタビューを紹介する(聞き手はナショナル ジオグラフィック英語版編集長スーザン・ゴールドバーグ)。 ――最初の質問です。今後10年間で、女性にとって必要となるもっとも重要な変化は何でしょうか? アリシア・ガルザ氏(以下、敬称略):その質問に答えるのは簡単です。もっとも重要な変化は力を持つことだと思います。なぜこれほど長く実現してこなかったのか、あまりにも遅すぎるという感じもしますね。女性は自分の生活や、自分が気にかける人々の生活について、意思決定権のある立場に就くべきだと思います。現状では、女性は力を持っていません。ですから自分自身や家族、愛する人々を取り巻くいかなる状況にも、決定的な影響を及ぼすことができないのです。  米国の連邦議会で圧倒的多数を占めるのは、クリスチャンの男性議員です。議会が資源の分配を決める場、法律を作る場であることを考えれば、これは大きな問題でしょう。女性が将来に向けて何を望み、何を必要としたとしても、権力と意思決定の場において少数派であり続ける限り、それを手に入れるのは簡単ではありません。 ――女性が将来に向けて望むのは、例えばどんなことでしょうか? ガルザ:とても長いリストになりますが、優先度の高いものから紹介しましょう。一つ目はもちろん、経済的な安定と福祉です。二つ目に、身体的自主権があります。これは家族を持つタイミングを自分で決定できる権利であり、家族を持ちたいと願う人にとっては、誰とどのように家族を持つかを自分で決定できる権利でもあります。  三つ目に、家族の暮らしの維持です。というのも、家族の離散によって特に深刻な影響を受けるのは、女性と子どもたちだからです。尊厳ある暮らしを望んだ結果、女性は死の危機にひんすることさえあります。数多くの女性が貧困から犯罪に手を染め、拘置所や監獄に送られて、手錠をはめられたまま出産することになるのです。リストはさらに続きますが、ここまでにしておきます。 ――ご自身をフェミニストだとお考えですか? ガルザ:ええ、私はれっきとしたフェミニストです! 私にとってフェミニズムとは、人間が尊厳ある満たされた生活を送るために欠かせないものです。それがフェミニズムの定義だとすれば、なぜこの考え方に反対する人がいるのか理解できません。  私たちもよく知っている通り、世間にはフェミニズムを嫌う人が多く、女性ですら自分をフェミニストと認めないことがあります。私はそれ自体を否定はしません。ですがフェミニズムの本質的な価値、つまり私たちが持つべき公平性、人権、尊厳を誤解に導く言動は、けっして許すべきではありません。 ――あなたがこれまでに乗り越えてきた、最大の壁は何ですか? ガルザ:特に大きかったのは家父長制度ですね。人種差別も受けました。恐らくその二つが引き金となって、自分を過小評価するインポスター症候群に陥ったこともあります。インポスター症候群にかかった人間は、周囲にどれだけ期待されても、自分をリーダーと認めることができません。  それ以外の壁といえば、私たちが現在の活動(ブラック・ライブズ・マター)に取り組む中でも、さまざまな混乱があったことは事実です。殺害予告からインターネット上での中傷、ストーカー行為まで、私たちが歩んでいく道の上にはありとあらゆる障害が立ちはだかっています。 ――わかりました。これまでの人生で、何か転換点となる出来事はありましたか? ガルザ:うーん、良い質問ですね。この仕事をしていればある意味当然だと思いますが、転機はいろいろと経験し、そのたびに可能性を見出してきました。ですが直近の個人的な転機は、自分自身を優先するようになったことです。  私のような立場にいる人間は、時として過大な要求を背負い、時間、エネルギー、精神的余裕を奪われていくことがあります。個人ではとても請け負えないほどの支援を求められることもあります。そうした状況下で優先順位をつけるときは、まず何よりも自分自身と、自分の元気の源を大切にしなくてはなりません。自分自身に活力を与えられなければ、いかなる形でも他者を支えることは難しいでしょう。 ――まったくその通りだと思います。次も関連した質問になりますが、あなたの最大の強みは何でしょうか? ガルザ:私の最大の強みは、ノーと言われても気にしないことです。そんなことは不可能だ、できるはずがない、成功した試しがないと言われると、心の中の自分がこうつぶやくのです。「オーケー、いまに見てればいい」と。 ――それは素晴らしいですね。 ガルザ:ええ、この強みにとても助けられています。 ――話題を変えましょう。歴史的人物の中で、あなたにもっとも近いと感じられるのは誰ですか? ガルザ:そうですね、いまなら(奴隷制反対運動家の)ハリエット・タブマンかもしれません。 ――それはなぜですか? ガルザ:理由はたくさんあります。何より私が尊敬しているのは、あらゆる危険を顧みず、奴隷主のもとから脱出したタブマンの勇気です。しかも彼女は自分以外の奴隷をも助け出そうと、粘り強く活動を続けました。これは優しさと友愛の精神がなければできないことです。またタブマンは奴隷制度への攻撃を続けるため、予想外の人物と手を組むこともありました。現代の私たちはジョン・ブラウンと聞けば、奴隷制廃止を訴えた人格者を連想します。しかし歴史上のある時期においては、ジョン・ブラウンはただの変わり者とみなされていました。そんなブラウン率いる一隊の活動を知ったタブマンは、彼らを利用して、奴隷救出を効率的に進めたのです。しかし、私生活では数え切れないほどの悲しみがタブマンを襲いました。  ようやく自分の自由を手に入れたとき、彼女が心から望んだことは、きょうだいや夫の救出でした。ところが、きょうだいに会いに行ってみると、その1人はタブマンが脱出を試みるあいだに亡くなっていたと判明します。この知らせに彼女がどれほど胸を痛めたか、想像に難くありません。夫にも会いに行きましたが、彼は既に再婚しており、タブマンとともに逃亡することを拒否します。こうした出来事に見舞われれば、人間は打ちのめされるのが普通です。けれど、タブマンはそうではありませんでした。  とにかく前に進み続けた人、それが私の尊敬するハリエット・タブマンです。何かに挑戦することを恐れたり迷ったりするとき、周囲の意見が気になるとき、私はタブマンのことを思い出します。彼女については、こんな言い伝えも残されています。タブマンは(逃亡をためらう)奴隷の背中に文字通り銃を突きつけ、「さあ、出発の時間よ。私がついているから大丈夫」とたきつけたというのです。ですから私も挑戦する自信がないときには、彼女に銃を突きつけられた気分になり、「さあ、やってやろう」と自分に言い聞かせています。 ――現代の若い女性たちには、どんなアドバイスを送りますか? ガルザ:前進あるのみです。私たちが何かに取り組んでいるとき、邪魔が入ることは多々あります。それでも前に進み、自分を大切にしてもらいたいと思います。その上で高潔さを保ち続ければ、ほかにどんな能力を身につけるよりも遠くへ行けるでしょう。大胆に、リスクを恐れず生きてもらいたいですね。失敗したらあとで謝ればいいのですから。

聞き手=Susan Goldberg/訳=湊 麻里

【関連記事】