「突然言葉が通じなくなったら」、逆の立場で考える
普段使っている言葉が通じなくなってしまう。ありえないことがもし起きてしまったとしたら――。言葉が使える便利さと、使えない不便さに改めて気付くことで、より良い社会について考えてみます。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤 芳浩) 「突然言葉が通じなくなったら」、逆の立場で考える
普段何気なく生活している環境が突然変わってしまうことは、なかなか想像しづらいことです。 2016年に公開された『君の名は。』(新海誠監督)というアニメ作品は、主人公の男女の二人が入れ替わるというストーリーでした。週に2~3度訪れる「入れ替わり」現象に戸惑う二人の様子が描かれています。 このように、立場が変わると人間は弱い存在になってしまうものです。 これをよく表しているのが、米国の動画「Make the World Accessible」です。 この動画では、ある女性が人に道を尋ねて歩きまわるのですが、道行く人に話しかけても言葉が通じず、イライラし始めます。最後には地図を投げ捨てて、その場を立ち去ってしまいます。しかし、実は彼女以外の街の人々は、手話を使って会話していたのです。 自分が使用する言語がいきなり使えなくなると、いろいろな面で不自由な思いをします。 例えば、学校で先生の教えていることが分からない、電車の事故のアナウンスが分からない、病院でお医者さんの説明が分からない、というようなあらゆる場面で起きています。 多数派は少数派のことに気付かないことが多々ありますが、立場が逆転することで、色々な気付きが得られることがあります。 手話を使う人は一般的には少数派ではありますが、日本には聞こえる人が積極的に手話を使うという珍しいコミュニティーが存在しています。
聴者もろう者も手話を使う宮窪地域
愛媛県大島にある宮窪地域は、聞こえる人(聴者)もろう者も宮窪手話という共有手話を使用してコミュニケーションしている珍しい場所です。研究者の矢野羽衣子さんによると、宮窪手話と日本手話とは言語学的な違いが存在するそうです。 前出の「Make the World Accessible」という米国の動画とは違って、自由自在にコミュニケーションがとられています。