ほぼ全ての歯に保険適用できる「ハイブリッド型かぶせ物」 末瀬氏「天然の歯とほぼ同じ色で、イオンの溶出もない」
【銀歯は古い!? デジタル技術で変わる歯科医療】 「これまでは強度があり、加工しやすい金属材料が歯科治療で多用されてきましたが、最近では高強度のレジン(樹脂)やセラミックスなどの代替材料が次々に開発され一部は保険治療にも適用できるようになってきました」と最新事情を語るのは、日本デジタル歯科学会の末瀬一彦理事長。 【写真】金属冠からCAD/CAM冠に修復した症例 新素材の中で近年、保険治療の適用が次々に拡大された中に高強度の有機材料であるハイブリッド型コンポジットレジンが挙げられる。 末瀬氏が解説する。 「2014年に小臼(きゅう)歯部のクラウン(冠=かぶせ物)に保険適用され、16年には金属アレルギー患者という条件で大臼歯部にも適用。18年にはかみ合わせが安定していて第二大臼歯(通常は最後方臼歯)がそろっている症例の下顎(がく)第一大臼歯に、20年4月には上顎第一大臼歯、そして同年9月には審美性の要求される前歯部にも適用拡大されました」 これは工作機械のシステムを歯科領域に応用したCAD/CAM冠と呼ばれるもので、今年4月の保険診療の改定時で、小臼歯部、大臼歯部の複雑なインレー(小さな詰め物)にも使用できるようになり、この結果、ほぼすべての歯に対してCAD/CAM冠が保険診療で適用可能となった。 この材料の長所について末瀬氏は「メーカーサイドで高圧化、高密度で成形加工されたブロックですので、気泡の混入もなく、材質も極めて安定し、冠の形態を再現する切削・加工時においても製作者の技術的な優劣がなく、常に安定的に供給できます。CAD/CAM冠は審美的にも天然の歯の色とほぼ同じで、銀歯などのようにイオンの溶出もありません」と話す。 その成形には、デジタル技術による歯科用CAD/CAMという画期的な加工法が導入されている。説明を続ける。 「ハイブリッド型コンポジットレジンは、従来、歯の詰め物用として使用されていたコンポジットレジンをさらに高強度で審美性のあるブロックとして製造され、歯科用CAD/CAMシステムで切削・加工することによって冠やインレーに成型します。これは、大小さまざまな形態の異なる超微粒子(ナノメートルサイズ)のガラスフィラー(セラミックス)を60%以上含有し、その周囲をマトリックスレジンという樹脂によってとり固められている材料です」 大臼歯部用は小臼歯部用よりも強度があり、さらに前歯部用は歯の色を再現するために色調のバリエーションもあるそうだ。銀歯などの金属と比べて、強度はどうか。 「金属のような絶対壊れない材料ではないので、強すぎる咬合(こうごう)力がかかった時には破折する可能性はあります。ただ、かえって支えている歯を守ることにもなります。金属冠は壊れないですが、気づかない間に支えている歯の変色や破折の可能性があります」(末瀬氏) 治療は、どの歯科診療所で受けられるのか。 「CAD/CAM冠を保険診療で行うには、歯科診療所が厚生局に『施設基準』という届け出を提出する必要があります。現在、全国の歯科診療所の約80%は届け出ていますので、ほとんどの歯科診療所で保険診療の対象となっています」 まさにデジタル時代の新素材だ。「次に歯の治療をする機会があれば、ぜひ歯科医師に相談するといいでしょう」と末瀬氏はアドバイスする。 (取材・佐々木正志郎) ■末瀬一彦(すえせ・かずひこ) 大阪歯科大学卒、同大学大学院修了(歯科補綴学)。同大学歯科技工士専門学校・歯科衛生士専門学校校長、同大学歯科審美学室教授などを歴任。現在、一般社団法人・日本デジタル歯科学会理事長、奈良県歯科医師会会長。