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【食堂のおばちゃんの人生相談】50歳・自営業のお悩み

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SmartFLASH

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える! 【お悩み/独身貴族さん(50)自営業】  この四半世紀、「間人ガニ」など、全国津々浦々のうまいものを食べ歩いてきた。しかし、今まででいちばん美味しかったのは、就職直後に亡くなった、故郷の母の手作りハンバーグだと気がついた。これってマザコンすぎますか? 【山口先生のお答え】  いいえ、決してそんなことはありません。まことにごもっともな意見で、心から同感いたします。  食べ物とセックスは、結局のところ脳で味わっているのだと思います。100グラム200円の肉でも「100グラム何と一万円!」と言われたり、ミシュラン三つ星のレストランで出されたりすると、実際以上に美味しく感じられるものです。  そっくり同じ美女がいたとして、片や庶民、片や「○○王家の姫君」だったら、絶対に姫君の方が上玉と思うはずです。これは「ありがたみ」という感情が脳に作用するからですね。  そして「想い出」というのも強烈な調味料です。この世に「想い出の味」に勝る美味しい物はないと言っても過言ではありません。 「美食家で有名な男性が手作りカレーをご馳走して下さるというので期待していたら、タマネギ人参ジャガイモ豚コマを水煮して、カレー粉を入れてメリケン粉でとろみを付けただけのものだった。その人曰く『僕が一番好きなカレーです。亡くなったお袋が作ってくれた味ですよ』。ギャフンと思った」  というエッセーが林真理子さんにありますが、納得する方が多いのではないでしょうか。  池波正太郎さんのエッセーを読むと、その好む店や料理がすべて、過去の想い出と密接に結びついていることに気付かされます。  私が所属する新鷹会の理事・伊東昌輝先生は池波さんの後輩で、何回かご馳走になったそうですが、「あの人の連れてってくれる店って、あんまり美味くないんだよね(笑)」と仰っていました。それは池波さんが決して「美食家」ではなく、「想い出の味」を大切にした小説家だったからだと思います。  それに、食べ物というのは本当に厄介で、美味けりゃ良いってもんでもないんですよね。不味いけど好きな味って、あるでしょ?  例えば林さんのエッセーに出てきたような「子供の頃お母さんが作ってくれた貧しいカレー」とか、もんじゃとか、紙芝居のおじさんから買った、今にして思えば絶対に不味い駄菓子とか。  もんじゃは月島で有名になりましたが、カルビや明太子がトッピングされた1000円もするような品は、もんじゃじゃありません。  私が子供の頃のもんじゃは駄菓子屋が冬になると始めて(夏はかき氷だった)、一品10円から20円、トッピングはキャベツの切れ端、紅ショウガ、サキイカとかで、そりゃあ貧乏な食べ物でしたよ。具が少ないから「土手」なんて作れなかったし。  汁が薄いのはうどん粉をケチったからで、お好み焼きをケチってもんじゃが出来たのです。まあ、これには異論反論もあろうかと思いますが、悪しからず。  そうそう、一緒に食べた相手とか、食べた場所も味に影響しますよね。ものすごく気疲れする相手の接待なんかしてたら、どんな美味しい料理が出ても味わう余裕がないだろうし、遠足で食べたおにぎりって、普段よりずっと美味しかったじゃありませんか。  独身貴族さん、どんな美食よりも「最高の味」の想い出ハンバーグを作ってくれたお母さんの子供に生まれて、良かったですね。  あなたのお悩みを伺っていたら、以前「亡くなった妻の味の肉じゃがを作りたい」と仰ったご相談者さんのことを想い出してしまいました。あの父娘さんのお幸せも、合わせてお祈りいたします。 やまぐちえいこ 1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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