手軽に「ググる」はもうできなくなる?…米司法省がグーグルに「Chrome売却」を要求した本当の理由
■トランプ次期大統領による「グーグル敵視」 一方のグーグルは、これらの提案に強く反論している。グーグルは、「業界で最も高品質の検索エンジンを提供しており、それが数億人の毎日のユーザーからの信頼を得ている」としたうえで、Chromeの売却と、場合によってはAndroidの売却を強制することで、「数百万のアメリカ人のセキュリティーとプライバシーを危険にさらし、人々が愛用する製品の品質を損なう」と述べ、政府の過剰な介入への危機感を訴えている。グーグルとしては、企業分割の要求など、やすやすと受け入れられるはずがなく、裁判が長期化することは必須だろう。 さらに、2024年11月の大統領選挙をドナルド・トランプ氏が制したことで、訴訟の先行きは不透明感が増している。もとをたどれば、グーグルに対するこの訴訟は、2020年、当時大統領として1期目の任期中だったトランプ氏が提起したものだった。数カ月前、大統領選の最中にも、自身に関する検索に検閲がかかっているとして、グーグルの利用をやめるよう支持者に呼びかけていた。 最近では、中国に対するアメリカの競争力維持の観点からグーグルは重要だと、トランプ氏が発言したとの報道もされているが、グーグル敵視の姿勢が支持者に受けてきたことから、今後も攻撃の手をゆるめることは考えにくいだろう。 ■「AT&T」「マイクロソフト」の教訓 アメリカ司法省の是正案が受け入れられれば、検索市場での競争が活性化し、消費者にとっては、選択の自由が広がる可能性がある。 そもそもアメリカには、公正な自由競争に対する信念が価値観として強く根付いている。アメリカでは、自由な競争環境のもとに次々とイノベーションが生まれ、各社がさまざまな手法を駆使してしのぎを削っていくなかで市場が活性化し、経済の成長につなげてきた。グーグルをはじめとする巨大テック企業も、その競争のなかで発展を遂げてきた。 それだけに、自由競争を阻害する「資本の独占」に対して、厳しく臨んできた歴史がある。通信・電話の最大手であるAT&Tも、反トラスト法訴訟の末、1980年代に地域電話会社と長距離電話会社、機材製造などを担う事業会社へと分割された。 テック企業でいえば、マイクロソフトも1990年代から数多くの反トラスト法訴訟を起こされてきた。1998年に、独自の「Windows」OSをめぐる販売手法などを問題視されて、アメリカ司法省が提訴。2000年にはOS事業とアプリケーション事業に会社を分割する命令が出された。2002年には和解が成立し分割は免れたが、その後も和解案の審理などが続き、裁判の終わりを意味する終局判決が出るまで、提訴から実に12年もの年月を要した。マイクロソフトにとって長きにわたる訴訟は、スマホ事業の出遅れといったその後の成長戦略の不振につながったとも言われている。 グーグルはアメリカ司法省の提案に強く抵抗する姿勢を見せており、簡単には決着しないだろう。グーグルが上訴し、最高裁まで持ち込まれれば、2年単位の戦いになると見られている。マイクロソフトの例を見ると、さらに長引く可能性もある。 訴訟自体は今も継続しており、今回の是正案が最終決定されたわけではない。訴訟には最低でも2年は要するだろう。最終的に和解にいたる可能性も残されている。それでも、今回の訴訟によりグーグルが戦略の転換を迫られることは間違いない。どのような結果になろうとも、グーグルは相応の犠牲を払うことになるだろう。 ---------- 田中 道昭(たなか・みちあき) 立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。 ----------
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭