米マクドナルド、ハンバーガー写真を「盛りすぎ」で訴えられる
──実際よりも美味しそうにみえるバーガー広告は、もはや業界の慣習となった。体積を稼げる生焼けの肉を使い、実際の商品よりも豊かな外見に仕上げているが……
とろけるチーズに肉厚のパティ、そしてふわりと包み込むバンズ。食欲を多いにそそるファストフードの広告だが、実際に商品を受け取ってみてがっかりする経験はつきものだ。 ●動画:誇張されたハンバーガーの広告写真、誰もが気になっていた...... 消費者の多くは、画像と商品に差があるのはいつものことだと考え、知らず知らずのうちにギャップを受け入れているかもしれない。しかし、ニューヨークに住む男性は、予想よりも小さいバーガーに我慢ならなかったようだ。 男性は自らとそのほか被害を受けた顧客への補償として、5000万ドル(約64億円)の支払いを求める訴訟を起こした。訴訟はアメリカの3つの法律事務所が代理人となり、同時に米ウェンディーズを相手取った。集団訴訟に発展する可能性がある。 ニューヨーク州東部地区連邦地方裁判所に5月17日に提出された訴状は、両社が「不実かつ誤解を招く広告」を展開していると訴えている。「(2社の)バーガーとメニュー商品の広告はフェアでなく、約束されたよりもはるかに価値が低い食べ物を提供されることで、消費者に金銭的な損害が生じている」との主張だ。バーガーのサイズと具材の量が広告よりも少ないことを問題視している。 ■ 美味しさ強調の「フードスタイリング」 生焼けや髭クリーム使用も バーガー業界では多くの食品業界と同じように、「フードスタイリスト」と呼ばれる専門の担当者が宣材写真の撮影を手助けしている。 基本的にプロモーション広告やメニュー用の写真・映像は、実際に提供されるものと同じ食材を使って行われる。しかし、撮影現場では「フードスタイリング」と呼ばれる調理・盛り付けの技法が導入され、その制作工程は店舗での調理と大きく異なる。 あるフードスタイリストは訴状のなかで、宣材写真は生焼けのパティを使って撮影されると証言している。水分が抜けて縮む前の状態を写真に収めることができ、火の通った実物よりも美味しそうにみえるというわけだ。当然、この状態では店舗で提供することができない。 ほかにも撮影の現場では、口に入れると危険な針で具材を固定し、食材同士のあいだに隙間を設ける手法が用いられる。こうすることで食品の高さが増してボリューミーな外観になり、全体にふんわりとした食感を想起させることができる。 広告撮影において、フード・スタイリングはごく一般的な技法だ。米ワシントン・ポスト紙は食品の撮影現場において、ホイップクリームのようにみえるシェービングクリームを使ったり、コーヒーの代わりに水で割った醤油を使ったりすることがあると紹介している。 ■ 誇張された写真、誰もが気になっていた 訴訟はアメリカで話題を呼んでいる。誰もが誇張されたバーガー広告を受け入れつつも、心のどこかに引っかかっていたようだ。 米ヤフー・ファイナンスの番組では、法律担当のアレックス・キーナン記者が、興味深い話題としてこの件をスタジオに持ち込んだ。記者は朗らかに笑いながらも、「人々はみな、店舗で目にするのと同じやり方で広告してほしいと望んでいるのです」と指摘する。 キーナン記者によると原告は、両チェーンが「ほとんどすべてのメニュー商品」に関して「虚偽の広告」を流していると主張している。具材となるビーフ・パティのサイズについては、広告よりも15%から25%小さいとの主張だ。 スタジオでは広告と実物の比較映像が示され、ジューシーで照りのあるようにみえる広告と、乾燥していて高さがなく、ビーフパティも広告より小さな現物が比較された。 改めて違いを目にした番組司会者の男性は笑いながら「非常にドラマチック」な差があると応じ、「みんな不思議に思っていたのでは」「私は最低でもここ30年間、バーガーがCMのようにはみえないと文句をいってきた」とユーモアたっぷりに同調した。 ■ 勝訴の可能性は 今回の訴訟はフードスタイリングによる誇張が常態化したフード業界にメスを入れるものだが、原告側法律事務所の勝算は薄いとの指摘もある。 ニューヨーク・バッファロー大学のマーク・バーソロミュー教授(知財・法学)は英BBCに対し、裁判官の支持を得るためには2つの証拠が必要だと指摘する。 すなわち、顧客が広告によって騙されたという証拠と、広告が購入の意思決定の決め手になったという証拠だ。バーソロミュー教授は、「原告にとってこれらの証明は両方とも、困難な戦いとなるでしょう」と語る。 教授によると被告2社は、一般的に人々はマーケティングに対して多少の誇張を見込んでいると主張し、広告によって騙された事実を否定する可能性があるという。原告としても本格的な裁判を想定しておらず、ある程度の条件での和解を見込んでいるのではないかと教授はみる。 今回訴訟に踏み切った3つの法律事務所は、以前からバーガー業界に厳しい目を向けていた。3月には別の原告の代理人として米バーガーキングを相手取り、同社の主力バーガー「ワッパー」が広告よりも35%小さいと訴えている。 大胆な判決は期待できないようだが、もしも広告と実物のかい離がアンフェアだと相次いで認められれば、日本のバーガーチェーンの広告のあり方も変わってゆくのかもしれない。