UCIワールドツアー2020年シーズン終了 ログリッチが2年連続で世界ランク1位に輝く
11月8日に閉幕したブエルタ・ア・エスパーニャをもって、2020年のロードレースシーズンは終了。未曽有のパンデミックによってシーズン途中の中断など、異例のシーズンとなった今年だが、終わってみれば7月の再開以降、ヨーロッパでは多くのレースが実施。最高峰カテゴリーのUCIワールドツアーも3つのグランツールをはじめ数々のビッグレースが日程を変更しつつも開催を実現させた。そしてこのほど、今シーズンの各種ランキングがUCI(国際自転車競技連合)によって発表に。イレギュラーなシーズンにあっても、力のある選手はしっかりと上位を名を連ねた印象だ。今回は、ランキングをもとに選手・チームの戦いぶりを振り返ってみたいと思う。 ログリッチが驚異のハイアベレージで2季連続世界ランク1位に UCIがロードレース部門で設定するランキングのうち、最高栄誉にあたるのが「UCIワールドランキング」。これは、UCIワールドツアーから同2クラス、さらには世界選手権・大陸選手権・国内選手権を含む、世界各地のさまざまなレースで獲得したポイントの合算によって決まるもの。このランキングに関してはシステム上、得点配分が高いUCIワールドツアーを主戦場とする同ワールドチームやその所属選手が上位を占めることになるが、その背景には上位ランカーたちがどれだけ格式の高いレースで活躍したかを示せるようにしたいというUCIのねらいがある。 ランキングは個人・チーム・国別の3つが設定される。そのうち、今年の個人ランキングでは、先のブエルタを制したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が昨年に続き1位に輝いた。 ログリッチの今季初戦は6月下旬のスロベニア選手権ロードレースだった。ここでの優勝を皮切りに、ツール・ド・ラン(フランス、UCIヨーロッパツアー2.1)個人総合優勝。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネは落車の影響でリタイアしたが、ツール・ド・フランスで激闘を演じての個人総合2位、UCIロード世界選手権も優勝争いに加わり最終的に6位。リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝。そしてブエルタ個人総合優勝と、驚異のハイアベレージ。 ブエルタ開幕前まではランキング2位だったが、開幕後は第1ステージからステージ優勝を果たしたほか、次々と上位フィニッシュ。会期18日間のうち12日間リーダージャージを着用したことで、個人総合首位の選手に与えられるポイント(25点)もコツコツと積み重ねたあたりも、最終ランクトップとなる要因とした。 ログリッチは、今季稼いだポイント4237点のうち、3382点をステージレースで獲得。ステージレースで得たポイント合算で順位づけされる「ステージレースワールドランキング」でも文句なしの1位になっている。 ビッグタイトルホルダーが順当に上位ランクイン 個人ランキング2位には、ツール覇者のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)が続いた。 今シーズン獲得したポイント3055点のうち、おおよそ半分の1585点をツールで獲得。この大会での大逆転の印象が強いヤングスターだが、2月のシーズンイン以降着実に上位フィニッシュを収めており、1年を通して継続してクオリティの高い走りを見せてきたことが得点からも証明されている。 3位には、今季大ブレイクしたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)がランクイン。特筆すべきは、ミラノ~サンレモ(500点)とストラーデビアンケ(300点)での優勝、ツール・デ・フランドルでの2位(400点)。さらには、UCIロード世界選手権でロードレース(475点)、個人タイムトライアル(250点)ともに2位。これにより、ワンデーレースで得たポイント合算で順位づけされる「ワンデーレースワールドランキング」では1位に。ここに、ステージ2勝などスプリント力も示したツールで得たポイントを加えてランキング上位入りを確かなものにしている。 トップ3まであと一歩に迫ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)は、やはりツール・デ・フランドルの優勝(500点)がビッグインパクト。ビンクバンクツアーの個人総合優勝(400点)にとどまらず、リエージュ~バストーニュ~リエージュ6位(175点)やヘント~ウェヴェルヘム9位(100点)といった具合に、大きなレースでしっかり上位入りして得点を加算していった。 これら上位4人に限らず、ビッグタイトルを獲得している選手たちが順当にトップ10入り。イル・ロンバルディアを制したヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ プロチーム)は5位、UCIロード世界選手権覇者のジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)は6位に。ラ・フレーシュ・ワロンヌを制したほか、再開後のシーズンですっかりトップライダーの仲間入りを果たしたマルク・ヒルシ(スイス、チーム サンウェブ)も10位と躍進。 今年はツールとブエルタにおける山岳比重の高さが目立ったが、その分ジロ・デ・イタリアで気炎を吐いたアルノー・デマール(フランス、グルパマ・エフデジ)が、スプリンターでは最上位の9位。また、ジロで個人総合優勝に輝いたテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)は、その他レースでの獲得ポイントが少なかったこともあり17位で今季を終えている。 ユンボ・ヴィスマがチームランク1位 獲得ポイントのチーム内上位10選手の合算によって順位が決まるチームランキングは、ツールやブエルタでのチーム力の高さが光ったユンボ・ヴィスマが1位。 ブエルタ前までは2位だったものの、ログリッチの活躍が奏功して土壇場でドゥクーニンク・クイックステップを逆転。その差142.9点と僅差だった。 今季39勝を挙げたドゥクーニンク・クイックステップだが、ブエルタでの得点源がほぼサム・ベネット(アイルランド)1人に限られる状況だったこともあり、大幅にポイントを伸ばすには至らず。昨年に続くランクトップを逃している。 そのほか、3位にはUAE・チームエミレーツ、4位にはイネオス・グレナディアーズと、グランツールで上位戦線に加わるチームがしっかりとランクイン。ファンデルプールの獲得ポイントが大きなウエイトを占めるアルペシン・フェニックスが12位、ナイロ・キンタナ(コロンビア)やワレン・バルギル(フランス)といった軸となる選手がきっちりポイントを稼いだアルケア・サムシックが14位と、UCIプロチームの健闘も目立っている。 2020年 UCIワールドランキング ●個人トップ10 1 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 4237pts 2 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ) 3055pts 3 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 2700pts 4 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 2040pts 5 ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ プロチーム) 1961pts 6 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 1795.8pts 7 リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) 1733pts 8 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAE・チームエミレーツ) 1671pts 9 アルノー・デマール(フランス、グルパマ・エフデジ) 1550pts 10 マルク・ヒルシ(スイス、チーム サンウェブ) 1430pts ●チームランキング 1 ユンボ・ヴィスマ 9919pts 2 ドゥクーニンク・クイックステップ 9776.1pts 3 UAE・チームエミレーツ 8503pts 4 イネオス・グレナディアーズ 7623.3pts 5 チーム サンウェブ 7582.7pts 6 ボーラ・ハンスグローエ 6738.5pts 7 アスタナ プロチーム 6612pts 8 トレック・セガフレード 6591pts 9 グルパマ・エフデジ 5614pts 10 EFプロサイクリング 5576.9pts 11 ミッチェルトン・スコット 4986pts 12 アルペシン・フェニックス 4788pts 13 バーレーン・マクラーレン 4686pts 14 アルケア・サムシック 3697pts 15 アージェードゥーゼール ラモンディアール 3628pts 16 CCCチーム 3434pts 17 ロット・スーダル 3231pts 18 モビスター チーム 2953pts 19 コフィディス 2806pts 20 サーカス・ワンティゴベール 2778pts 21 NTTプロサイクリング 2618.3pts 22 イスラエル・スタートアップネイション 2358pts 今週の爆走ライダー-ジーノ・マーダー(スイス、NTTプロサイクリング) 「爆走ライダー」とは… 1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。 初のグランツールだったブエルタでは、数回逃げにトライ。実質最後のチャンスだった第17ステージでは、アルト・デ・ラ・コバティーリャで経験豊富なクライマーたちにチャレンジしたが、あと一歩及ばず2位。プロ初勝利は、来年へお預けになった。 23歳。1年年下のヒルシが大ブレイクしたが、特に焦りはないという。環境への順応は早い方だと自負するが、昨年のプロ入り以降、ここまでは順調にキャリア序盤を進められているという。もっとも、ジュニアからアンダー23への移行期に心臓の疾患が見つかったことや、事故による骨折の経験から、「時間をかけつつ総合系ライダーを目指したい」との考えがベースにあるのだとか。 そんな彼にとって、レーサーとしての使命は「家族の縁をつなぐ」こと。ロードレーサーとして高いレベルにあったという両親は、マーダーが16歳の時に離婚。ローラートレーニング中に家の中から聞こえてきた父親の引っ越しの話は、いまだに脳裏に焼き付いている。自身と両親の3人がそろう機会はレース会場だけだといい、「私の走りを通じて2人が仲良くしてくれているのがうれしい」と話す。 大きな目的をもってレース活動に勤しむが、来季の所属チームは未定。「ブエルタでの走りはアピールになったと思うよ」と楽観的な姿勢を見せるが果たして。 上りに強く、ダウンヒルも巧みなところはヒルシと似るが、アンダー時代同様に一緒のチームで走ることはないのかと問われると、「そうなったらスイス選手権は楽勝だろうね」。なにやら、ユーモアセンスも十分な好青年のようだ。 福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ) サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU」