鈴木亮平「自分の器より大きい役を演じることで成長」
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NHK大河ドラマ「西郷どん」で毎週、情熱的な演技を画面いっぱいに見せつけてくれる鈴木亮平。西郷隆盛がギラギラと輝く唯一の太陽ならば、映画『羊と鋼の森』の柳伸二は、木々を揺らすさわやかな風のような存在だろうか。
深すぎる調律師の仕事 俳優の仕事との共通点も
同作はピアノの調律に魅せられた青年の成長を描く物語で、鈴木は主人公の新米調律師・外村(山崎賢人)を指導する先輩の柳を演じた。柳は外村の勤務する楽器店では一番年齢が近く、頼りがいのある兄貴のような存在で、確かな技術と豊富な経験を持つ調律師だ。もしかすると、柳は等身大の鈴木ではないかと思えてしまうような佇まいなのだ。 「原作の柳さんはもう少し静かなイメージですが、監督から『みんな静かな人間になってしまうので、柳さんは、原作より明るくたくましい人間になって欲しい』と言っていただいたんです。そこで、調律師としての品のようなものを残しながら、先輩としてグイグイたくましく後輩を引っ張っていく。それが自分の中での(役作りの)テーマだったかなと思います」 それまではピアノに触れる機会もなく、調律師という職業があることすら知らなかったという。調律師役を演じる上で、まずは直面したのは知識、技術面での難しさだった。 「最初は音が拾えなかったのですが、やればやるほど音を揃えられるようになってきて楽しくなりました。音階を揃えられるくらいはできても、それは本当に最初の一歩。どういう音の質に仕上げていくのか、強弱だけではなく相手が何を求めているか。すごい深い世界で……。その入り口を、少しだけ見せていただいたという感じです」
そんな調律師を演じながら、俳優との共通点を見出したと言う。 「調律師に限らずですが、『プロって何だろう?』と。まず、お客さんあってのものだと思います。でも自分の中での表現があって、目指すものもあって。そういうところは俳優というお仕事と似ているなと思いました。また、演奏するアーティストを監督とすると、僕らは全体を調律するひとつのパーツになっていくんですけれど、演奏する人の向こうにお客さんもいて、そことの関係っていうのは共通したものがあるかもしれないですね」 柳が発する「才能っていうのは、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか」という言葉がとても印象に残る。 「これは僕も俳優業をやっている上で信じていることのひとつです。この映画の中で一番好きかもしれないセリフが僕のセリフだったっていうのは、嬉しかったです」 人々が奏でる音楽に寄り添う役を演じて、「自分にもっと音楽の素養があればよかったのに」とも感じた。 「30代半ばになり、いろんなことを勉強して自分を磨いていかなくてはいけない中で、音楽的な表現をお芝居にのせていけたら、もっと自分のお芝居が深まるだろうなっていうのを考えたりしまして。静かな表現ひとつ取っても、激しい表現ひとつ取っても、いろんな形がありますし。音楽的なものにあまり触れずに育ってきたので、そういうところを学んでいけばもっと幅広い俳優になれるのではないかなと。今後、ピアノを本格的に習おうと思っています。15年後くらいに弾き語りができるようになれればいいな(笑)」 弾き語りをする鈴木亮平。また、鈴木の新しい一面が見られる日を心待ちにしていたい。