カシミールの「赤い黄金」サフラン、気候変動で収穫が激減
(c)AFPBB News
【1月26日 AFP】紫色の花はかつて、広大な畑を覆っていたが、今は乾いた土からまばらに顔をのぞかせるだけだ。インドが実効支配するカシミール(Kashmir)地方にあるサフラン栽培地域パンポーレ(Pampore)の農家の人々の、これが現実だ。 気候変動を原因とする干ばつにより、世界で最も高価な香辛料サフランの収穫高が過去20年間で半減しており、2500年にわたって、この地域に富をもたらしてきた作物の未来が脅かされている。 「これらの畑は、かつては金鉱のようなものでした」と、パンポーレ在住のアブドル・アハド・ミル(Abdul Ahad Mir)さんは話す。パンポーレはカシミール地方の主要都市スリナガル(Srinagar)のすぐ南に位置する。 ミルさんの家族は、紫の花から細く赤いめしべを注意深く摘み取る作業をし生計を立てていた。 「自分が子どもの頃は、畑の花を摘むのに80人がかりで1週間以上作業しなければなりませんでした」とミルさんはAFPに語った。 「現在は、家族6人で作業すれば1日で終わります」 気候変動に起因する気温の上昇によって降雨量が不安定になり、水を欲するサフラン畑から水が奪われている。 ヒマラヤ(Himalaya)地域全体での氷河の縮小も、麓の丘陵地帯へと向かう水流を減少させている。 サフランを1キロ生産するのに約16万個の花が必要になる。地元の市場ではサフラン1キロ当たり約1350ドル(約14万円)で販売される。 だが公式発表によると、「赤い黄金」と呼ばれるサフランの収穫高は、2018年には1ヘクタール当たりわずか1.4キロだった。これは1998年の数字の2分の1だ。 モハマド・ラムザン・ラザー(Mohammad Ramzan Rather)さんによると、パンポーレにある自身の畑では、サフラン生産量が12年前の2キロから減少し、2020年は30グラムほどにとどまったという。 ■当局の主張に農家から異論 世界のサフランの90%近くがイランで栽培されているが、カシミールで栽培されるサフランは深紅色で独特の香りがするため、品質が優れていると専門家らは見なしている。 2010年には、インドの関係当局が現代的な農業技術を農家に導入する目的で5400万ドル(約56億円)の基金を設立し、気候変動によるダメージに歯止めをかけることを目指した。 当局はこの取り組みが成功を収めていると自賛し、カシミールの3700エーカー(約1500ヘクタール)に及ぶサフラン畑を再活性化させていると主張している。 だが、農家の人々は異論を唱えている。人々はプラスチック製のかんがい用パイプが水をほとんど運んでこない上、畑を耕すのに邪魔になるとして、パイプを引き剥がしてしまった。 また、当局の計画の下に導入された高収量品種のせいで自分のサフランが台無しになったと主張する人々もいる。 他方でリンゴの方が必要な水の量が少ないとの理由から、サフラン畑を果樹園に変えようとしている農家もあるという。 映像は2020年11月に取材したもの。(c)AFPBB News