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大泉洋、小池栄子ら個性豊かなキャストが好演。大乱闘に笑って泣いて

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キネマ旬報WEB

成島出監督が惚れ込んだ小池栄子演じる破格のヒロイン

直近の『美食探偵 明智五郎』(20)での殺しのカリスマ役も強烈だった小池栄子にとってのターニングポイント「八日目の●(せみ)」(11)で女優としてのポテンシャルを存分に引き出し、以降も度々組む中で、彼女にふさわしい主演作を模索してきたという成島出監督。そんな名伯楽が、太宰治の未完の遺作をケラリーノ・サンドロヴィッチが自由な解釈で完結させた舞台で、小池演じる破格のヒロインに触発され、16年度の読売演劇大賞3冠に輝く同作の映画化に挑んだのが「グッドバイ ~嘘からはじまる人生喜劇~」(19)だ。 終戦から3年。自ら口説いた覚えはないが、今や複数の愛人を抱える文芸誌の編集長・田島は、心機一転、青森に疎開させたままの妻子を呼び寄せるべく、とびっきりの美人と夫婦を装い、愛人ひとりひとりを訪ねて関係を清算する『お別れ行脚』を決意。日中は泥まみれで働く担ぎ屋、実は絶世の美女のキヌ子を相棒に、珍奇な作戦が幕を開ける。

男連中もなぎ倒す剛腕に、誰もが振り向く美貌を秘め、口を開けば一度聞くだけでクセになりそうな独特の声。数々の矛盾を内包するキヌ子のキャラクターは、あらゆる価値観が瞬時に覆った敗戦後の混沌そのもので、それを小池が有無を言わさぬ説得力で肉づけする。片や、終始受け身に見えて意外に頑固なダンディズムを貫く、自己愛と自己憐憫が同居する太宰風のモテ男を、大泉洋が飄々としたたかに巧演。さびしんぼうで死にたがりの男と、ひとり上手でバイタリティの塊のごとき女の、何もかも違うふたりが『破れ鍋に綴じ蓋』的な絆で結ばれるさまを、絶妙の相性で魅せる。

大乱闘がラブシーンの裏返しにさえ感じられるあべこべの世界観

すべての人物に情を通わせる成島作品らしく、偽装夫婦を取り巻く女たちも個性豊か。それぞれに自立し、妻子ある相手と付き合うことへの覚悟を胸に、欲望に忠実に生きる姿は清々しいほど。とりわけ、自殺未遂を繰り返す度にパワフルに進化する戦争未亡人は、過去を顧みずに復興へと爆走する潮流のシニカルな象徴にも見え、緒川たまきの怪演とともにインパクトを放つ。 美しい夕景狙いのクライマックスは、はがゆい廻り道をしてきた凸凹カップルならではの愛情表現に目を奪われる、映画的な躍動感に満ちたハイライトでもある。ひとづき合いもままならない今、『グッドバイ』が『愛してる』の、大乱闘がラブシーンの裏返しにさえ感じられるあべこべの世界観が、おバカだけれど愛おしい、ひと恋しさくすぐる笑いと涙をもたらす佳篇だ。 文=服部香穂里/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報10月上旬号より転載)

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