電通が出資したMERYの哲学と戦略 ユーザー激減でも成長する「規模より深さ」の理由
100人の同世代ライター陣と小学館のコラボ
いわゆるニュースや報道の世界とは異なる趣味やファッションに関するメディアなどは特にそうだ。中でもMERYは同世代の感覚が最大限活かされているのが特徴で、その核になっているのが100人規模のライター陣だ。 「10代後半から20代前半。読者と同じ世代で、もともとファンの人たちから選んでいる。面接と課題を通じて、選び抜かれた人たち。自分の好きなものを書きたいという熱量が高い人を採用してます」(砥綿氏) その多くは学生だという。ここで疑問が浮かぶのは、著作権や記事の信用性が問題視された休止前のMERYと一緒の体制ではないかということだ。 深さを生み出すために必要な要素であり、MERY休止の際に大きく注目されたのが、著作権や信頼性の問題。ここで力になっているのが新生MERY再開の際にDeNAと共同出資した小学館だ。藤田氏が説明する。 「著作権や引用に関してはライターをきちんと教育した上で、書いてきたものを校閲会社、そして小学館から来ているベテラン編集者たちがいわゆるデスクや副編集長の役割でチェックするようにしています。特に医療や薬機、健康情報については法的にも問題になりやすいので厳しくチェックしています」 MERY再スタート時にBuzzFeedが取材した際には「量より質を重視する」と明言し、厳しいチェック体制を設けた。その結果、コンテンツの制作時間が予想以上にかかる上、同世代ライターが書く等身大の良さが消されるという声もあった。 この点について藤田氏は「試行錯誤の中で、何をどこまでチェックすれば信頼性を確保した上で、同世代ライターの良さも活かせるかわかってきた」と話す。 「例えば、主語を『私』で書くときに『ワタシ』と書きたい人も『わたし』と書きたい人もいる。コンテンツの中身によって書き方を変える人もいる。それはライターに任せている。表記の揺れも、一つの記事内では統一させるけれど、あとはその人が書きたいように書いてもらう」 「一方で引用については引用ルールをきちんと守っているかや、差別表現の有無、医療や健康については特に社内の専門家のチェックも受ける。ライターによって書いていい分野と書いてはいけない分野も分けている。そうやって信頼性を確保している」 「それ以外にも、例えば渋谷の駅から徒歩4分のお店があったとして、徒歩4分かどうかは校閲が調べる。その上で『駅から遠い』という主観的な表現があったら、それはお店の人にとってはそれほど遠くもないのに書かれて嫌なことだから削ろうとか、そういうチェックを編集がしている」 当初は研修、記事執筆、許諾、チェックから配信までで最大で2カ月かかることもあり、1日の制作数は20記事ほどだったが、現在では1日70~80ほど。再開後の累計で3万記事になる。 それでも旧MERY時代の3分の2のペースだが、規模よりも深さを追いかける戦略転換もあり、想定通りだという。 旧MERYが休止される際には、特に著作権に関して強い批判を浴びた。BuzzFeedも当時、記事を書いた。今も厳しい視線が消えたわけではない。効率を追求したかつてのMERYと異なる編集体制には、その教訓が反映されている。