日本の山をフリークライミング。/執筆:服部文祥
さて、日本の山はどうでしょうか。 山に林道ができたり、ロープウェイが架けられたりすれば、山頂からの風景を誰もが平等に楽しめると喜ぶ人はいます。登山者であっても、道が拓かれたり、山小屋が整備されたりすれば、登りやすくなったと考えます。でも、山を加工してしまったら、あるがままの山をあるがままの自分で登る100パーセントの登山はもうできません。 どうすれば日本の山をフリークライミングのように創造的で、フェアで、持続可能に登れるのか。そう考えて私は、フリークライミングを真似て、できるだけ装備を使わず、登山道も使わず、もちろん山小屋も避けて登ることを考えました。そして日本の山には食料(イワナや山菜)や燃料(薪)があるので、それらを現地で調達しながら登ってみようと思いました。 それは、自分にあえて負荷をかけるのではなく、できるだけ自分の力を発揮するための方法です。道具をシンプルにする、といっても自分の力をよりフェアに発揮するための道具(衣類や鍋や靴やタープ、釣り具など)は積極的に使用しています。 サバイバル登山は、ときにカエルや蛇を食べたりするため、ちょっとキワモノと思われることもあります。ただ私にとってはできるだけ自分の力で登ることを目指すためのやり方です。登頂という目的から見ると、サバイバル登山は「登頂効率」を下げるかもしれません。一方で、自力という点を考えるなら、サバイバル登山は「自力発揮効率」が優れたよりシンプルな登山スタイルといえます。 フリークライミング的に山に登る方法は他にもあります。例えば豪雪地帯の冬山は雪で山の人工物が埋まるため、原始の姿の山に登ることが可能です。 あるがままの山を、できるだけ自分の力で登ろうと考える登山者はあまりいません。その意味でフリークライミング的な登山者は絶滅危惧種といえるかもしれません。そんな、自力登山の先に何があるのか、次回以降紹介してきたいと思います。
プロフィール
服部文祥 はっとり・ぶんしょう|登山家・作家。1969年、横浜生まれ。’94年東京都立大学フランス文学科とワンダーフォーゲル部卒業。大学時代からオールラウンドに登山をはじめ、’96年にカラコルム・K2登頂。’99年から長期山行に装備と食料を極力持ち込まず、食糧を現地調達するサバイバル登山をはじめ、そのスタイルで日本の主な山塊を旅する。近年は廃山村に残る民家で狩猟と自給自足の生活を試みている。著書に『サバイバル登山家』(みすず書房)など。新刊に『今夜も焚き火をみつめながら』(モンベルブックス)。 text: Bunsho Hattori edit: Fuya Uto
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