ヒュー・グラント、自分が「ロマコメ帝王になった理由」と「家族」を語る─“現役最高の性格俳優”になった彼の素顔
自らを革新していく俳優
グラントが英国流の見事な自虐ネタを披露するのを聞いていると、ホラー映画にキャスティングされたことが妙に思えてくるかもしれない。彼自身、ホラー映画は何よりも苦手らしい。 しかし、『ヘレティック』の監督兼脚本のスコット・ベックとブライアン・ウッズはインタビューで、人の予想を裏切るグラントの能力が今回の役にぴったりだったと語っている。 「自分のキャリアでついたイメージを、自ら革新していく俳優なんです。イメージを刷新して、観客の予想を裏切るものに変えてしまうんですね」とベックは言う。 『クワイエット・プレイス』の脚本家としても知られるベックとウッズのコンビは、2012年の映画『クラウド・アトラス』に出演したグラントの演技を回想している。同作で彼は6役を演じており、どれも卑劣な悪役であった。 「映画を観終わって、スコットが最初に発した言葉が『ヒュー・グラント』だったんです」とウッズは言う。 「あの映画に彼を出すという挑戦的で大胆かつ奇妙な決断に、僕らは興奮しました。個人的な意見としては、あの映画以降の10年でグラントは、エッジの効いたダークな役柄を見事に演じる、現役としては最高の性格俳優(個性的な役を上手く演じる俳優のこと)になったと思います」 若い頃のハンサムが印象的なしわ顔へと変化したいまも、公園を歩くグラントはかなり目立った存在だ。すれ違う人の多くは、彼に気づいてもニューヨーカーらしくクールに平静を装っていたが、なかには『ヒュー、大好きです!』と叫び出す人もいた。 突然近づいてきて、『アバウト・ア・ボーイ』(2002)がどれだけ好きかを滔々と語り出す女性もいた。この映画でグラントは、軽薄な独身男が他者との関係に伴う責任を引き受け、一夫一婦制の結婚を受け入れていくさまを演じている。 「あの映画は一言一句覚えてます」とその女性は言った。同伴していた夫は、赤ん坊をあやしつつ心から帰りたそうだったが、彼女はそれを叱るような身振りをした。「彼にも年に一回、必ず観せてます」 「それはありがとう」とグラントは言い、2人が去ってから、「気の毒な男だな」とつぶやいた。
Sarah Lyall