〈中国の一帯一路は死んでいない〉投資額減少も、デジタル経済で付加価値への「進化」
3つの観点
上記の戦略的志向の観点から中国にとってのLACの位置づけは、(1)貿易・経済、(2)海洋航行路の一環、(3)安全保障・軍事協力の対象、という三つの側面から見ることができる。 第一に貿易・経済関係についてだが、中国にとってのLACは、農産物や原油等の一次産品の重要な供給源であり、中国からは機械類、電気、ハイテク製品などを輸出している。中国のLAC地域との貿易は急速に拡大し、22年の時点で4500億ドル、02年時点(180億ドル)の25倍に拡大した。 今や中国は南米で最大、LAC全体では米国に次ぐ第2位の貿易相手国となった。中国によるLACとの経済関係の急伸は米国の影響力を相対的に低下させる一因となっている。 第二に、海洋航行路構築の一環としての対LAC関係がある。中国による港湾等のインフラ整備という意味においてLACは欧亜大陸、アフリカに比して後発地域であり、中国が投資ないし運営する港湾施設はなお少数にとどまっているが、中国が資本参加あるいは運営に何らかの形で関与し、かつ深海港と呼ばれる港は、着実に増えている。 これら深海港はいずれも公式には商業用として運営されることになっているが、中国においては民生用と軍事用の区別は曖昧であり、海軍の施設としての使用を不可能にするものではない。また仮に通常は民生用として利用されるにせよ、米中間で紛争が発生した場合には、これら港湾施設は米側の行動を抑制する働きをするであろう。 第三に、安全保障・軍事協力の対象としての意味がある。中国にとってLAC諸国は武器輸出、軍事交流、要員の訓練などで重要な役割を果たしている。そして、10年代の後半から重視されてきた分野に、衛星関連施設の設置場所としての意義がある。 これら全ては今後も続けられていくであろう。当然ながら、衛星の運用は大陸間弾道弾の軌道制御等、軍事目的を伴うことになる。
岡崎研究所