〈中国の一帯一路は死んでいない〉投資額減少も、デジタル経済で付加価値への「進化」
さらにもう一つの懸念は、中国とLAC諸国のパートナー間の力関係である。この地域の貿易と投資の条件を決定づけるのは中国なのだ。 結局のところ、今の状況はLAC諸国が真に必要とするインフラは何かという重要な問題を提起している。最終的に、LAC諸国はインフラ・プロジェクトの費用を負担しなければならないが、中国の方針転換は、この地域を今後、より採算の合わない高価なインフラ・プロジェクトから救うのかもしれない。 * * *
内容の拡大と変遷
本論説は中国のLAC諸国を対象とする一帯一路(BRI)のプロジェクトの重心が移行していることの意味につき、主として経済面を中心に論じている。しかし、中国のBRIは常に政治・安全保障上の狙いが伴っていることが重要である。 BRIは2013年、カザフスタンにおける習近平主席の演説をもって開始され、1兆ドルを超える「巨大経済圏構想」として世界の注目を集めたが、投融資の額は18年をピークにその後減少に転じた。またここ数年は大規模投資の表明はほとんどなく、比較的小規模の投資に焦点が当てられてきている。しかし、BRIがその使命を終えようとしている訳ではない。 習近平がBRIを打ち出した当初は「陸と海のシルクロード」と称し、ユーラシア大陸とその周辺海域における輸送路の構築を主たる内容としていた。その後18年頃からは「質の重視」が強調されるとともに、光ファイバーの敷設を含む「デジタル・シルクロード」、続いて衛星の地上局設置等を中心とする「宇宙のシルクロード」、さらには北極海航路へのアクセスを念頭においた「氷上のシルクロード」が表明されるなど、その内容は拡大ないし変遷してきた。 詰まるところ、BRIの目的はグローバル・レベルで中国にとって有利なガバナンスを確立すること、経済的には中国式のビジネスモデル、中国式の統治形態をグローバルに浸透させることであり、個々のプロジェクトはかかる戦略の下で、時々の政治・経済状況と歩調を合わせながら進められていく。正に「進化」していくのである。 そして地理的には、ユーラシア大陸から開始して、10年代後半からは中東、アフリカ、そして最後にLAC地域へと拡大していった。大規模なインフラ投資から「質の重視」と新分野の開拓へと進んだ時期と、LAC地域へと拡大していく時期はおよそ重なっている。