「B’z」稲葉浩志 仕事の悩みは「その仕事でしか解決できない」
その仕事でしか解決できない
そして3曲目はマンドリンの音色とドラムの独特のタイム感が軸となっている、『BLEED』。Bメロの隙間の作り方など、シンプルだがフックが随所に効いている。 この楽曲には迷いや戸惑い、哀しみといったものを克服してタフになろうと心を決める主人公が描かれているが、稲葉自身はアーティストとして、人として困難を乗り越えていく時の秘訣などはあるのだろうか? 「秘訣は…、ないですね(笑) 気を紛らわすことはできるかもしれないですけど、仕事の中でそういう局面に当たった場合はどうしたって、その仕事でしか解決できないので。時間の経過というのを頼りにしているところはあります。経過することで…、例えば音楽を聴いていても違うふうに聴こえるじゃないですか。音楽に限らず、人とのコミュニケーションの中でも、時間が経ったら違う切り口も見えてくることがあるし。だから、そこに頼り切っているわけではないですけど、そういうものも少し期待はしてしまいます」
歩きながら幾つかの言葉をスマホにメモ
時間の縦軸と横軸が交錯する中、どこか神秘的な映像が浮かび上がる『水路』は、ゆるやかなスケール感を湛えたバラード。山木秀夫のドラムのリムショットは、時を刻んでいるようにも響いてくる。 「これはまず歌詞だけがあって。水路跡の緑地になっている所を歩いている時に、時間が流れていく感じと同じ場所での定点が積み重なっていく感じとか、その場所を見ていて自分で“10年後にここを僕が歩いている時、どうなっているのだろうか”と思ったりしたのを書いてみようかなと思って。歩きながら幾つかの言葉をスマホにメモしたんです。そして、そこをひとつの風景として切り取って、そこから先は想像の世界とか自分が考えていることを散りばめながら構築していきました。メロディは歌詞に当てはめていく形で作っています」 ずっしりと重みのある、聴き応え十分の作品集となっている今作だが、リリースに先駆けた11月23日には東京・渋谷モディのHMVで行われたインターFM「Happy Hour!」に出演。ソロでは初となる公開生放送への出演となった。 普段のコンサートのステージでは、何万人もの聴衆を前に圧倒的な歌唱力と卓越したパフォーマンスを披露する稀代のボーカリストにとっても、ラジオの公開生放送は新鮮なステージだったようで、「目の前に観客の人たちがいるんですけど、曲が流れている間もずっと僕の方を見ているので、居ても立っても居られない感じでしたね(笑)」 それでも、「公開の場で新曲を発表できるのは、いいですね。臨場感もあって、ある意味でライブですから楽しかったです」と振り返る。 ライブといえば同作をリリース直後の1月16日からはツアー「Koshi Inaba LIVE 2016 ~enIII~」もスタートする。 「前回の“en-ball”と同じメンバーでやります。前回は初顔合わせのメンバーで、同じ場所で10日間やって、すごくいい方向に結果を出せたので、今回はその同じメンバーで外に出てみるという、前回のフレッシュな緊張感とはまた違う形のものを生み出したいなと思っています。『羽』の楽曲も、CD音源での再現ではない何か新しいやり方で披露したいと考えていますので、楽しみにして頂ければ」と稲葉は力強い眼差しで語った。 (竹内美保) ■稲葉浩志(いなばこうし)9月23日生まれ、岡山県出身。1988年にギタリスト・松本孝弘と「B’z」を結成し、同年9月にデビュー。その圧倒的な歌唱力で数々のヒット曲を世に放ち、日本を代表するボーカリストの一人として人気を集める。97年1月には稲葉浩志名義のソロアルバム『マグマ』をリリース。シングル曲、タイアップ曲がないオリジナル・アルバムながら初動売上50万枚を突破、ミリオンセラーを記録する。翌98年12月には、1stシングル『遠くまで』をリリースし、グループ出身者によるソロ1作目のシングルとしては初動売上歴代1位を記録。今年1月13日に通算5枚目のソロシングルとなる『羽』を発売する。