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「スマート車いす」世界へ 現地化テコに共感呼び込む WHILL杉江CEO

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NIKKEI STYLE

■人材・企業を集める、まっすぐな「分かりやすさ」

リアリティーを追求する姿勢は、「つくりもの」を徹底して排し、飾らない言葉で発信するという自身のプレゼンテーション手法にも表れている。起業して1年後にシリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル、500スタートアップスからの資金調達に成功したのも、プレゼンの巧拙以上に「ファクトがすべてだった」と考えている。 「最初に開発を始めてから3年半、自分たちの資金で活動を続け、生き残るために手段を選ばず、シリコンバレーに来た。そして、最終的な製品を作れる(開発担当の内藤淳平氏、技術担当の福岡宗明氏、デザイナーの杉江氏という)チームがあった。それだけだと思いますね」 「すべての人の移動を楽しくスマートにする」。杉江氏とWHILLが目指す、このシンプルで分かりやすいメッセージが人をひきつけ、企業を動かす。 17年に発売したModel Cに実際に乗ってみて、技術の粋を実感した。電動車いすに乗るのは初めてだったが、驚くほどスムーズに発進・停止する。その場で回転できるので、進行方向を変えるのも簡単だ。事前の説明や練習なしでも、自分の身体の一部のように動かすことができる。 小回りを実現させたのは、前輪に使われている、24個の小さなタイヤを組み合わせた「オムニホイール」だ。車軸の外周に並んだ24個が1つのタイヤのようになって前後に回る。個々のタイヤは横方向にも回る仕組みになっている。 開発にはトヨタ自動車のグループ会社出身の技術者らがかかわった。部品はベアリング(軸受け)大手の日本精工から提供を受けている。モーターの開発には日本電産が協力。遠隔操作ができるスマートフォンアプリは大手電機メーカーやネットゲームの有名企業から移ってきた技術者らが開発した。 製造以外にも、事故時の保険や故障時の対応、シェアリングなど、様々なサービスも手掛けていて、関係する事業の裾野は広い。「自分たちのミッションは、いろいろな人や企業の協力がなければ達成できない」と、杉江氏は深く理解している。だからこそ、明確なビジョンで周りを巻き込むリーダーが不可欠だ。 社員が300人以上に増えた今も、杉江氏は折に触れて利用者の意見を聞く。公共交通機関や自動車を降りてから目的地までの「ラストワンマイル」をWHILLが担い、誰もが自由に行きたい場所に行けるインフラを完成させる。そのためにユーザーの声に耳を傾け、必要な協力を働きかけていく。東京・町田のアパートに集った3人で開発を始めて10年を経た今も、杉江氏が追い求め続けているのは、ユーザーが望むリアリティーだ。 (ライター 高橋恵里)

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