なぜM-1は国民的行事になり、紅白はオワコン視されるのか…2008年の放送を見ればわかる両番組の決定的な違い
■テレビ番組としての面白さの源とは エントリーしたのは史上最高(当時)の4489組。何度かの予選を経て決勝進出8組が決定した。当日の出番順にダイアン、笑い飯、モンスターエンジン、ナイツ、U字工事、ザ・パンチ、NON STYLE、キングコングという顔ぶれである。 審査員は、島田紳助、松本人志、上沼恵美子、渡辺正行、オール巨人、大竹まこと、中田カウスの7人。司会は今田耕司と上戸彩。上戸は、この年が司会者として初登場だった。 『M-1グランプリ』のルールにおける最大の特徴は、敗者復活戦のシステム(2002年の第2回から導入)だろう。コンビ結成10年(あるいは15年)以内という出場条件も時にドラマを生むが、なんといっても敗者復活による下剋上が起こるかどうかがテレビ番組としての面白さの源になっている。 しかも前年の2007年が、サンドウィッチマンが初めて敗者復活からの優勝を果たすという劇的な展開。2008年は、敗者復活組への注目度が俄然高まったなかでの開催でもあった。 このときの敗者復活戦会場は大井競馬場。5千人ほどの観衆がいた。参加したのは58組。特別審査員と一般審査員による合計得点で1組が選ばれる。この頃勝者は、番組本番が始まって2組目のネタが終わったところで発表されていた。 そしてこの年選ばれたのが、オードリーだった。2001年の第1回から毎年予選敗退が続き、ようやくつかんだ決勝への切符である。 若林正恭は、ピンクのベストにべったり固めた七三分けという春日俊彰をフィーチャーした“キャラ漫才”は選ばれないという情報も事前に出回り、半ばあきらめていたという。だから当日は大井競馬場まで原付バイクで行っていた。そのまま、六本木のテレビ朝日に向かうことになるとは思ってもいなかったのである(『オードリーのオールナイトニッポン』)。 ■「敗者復活組がトリ」の効果 M-1では、出番の差が結果を左右すると言われる。 特に「トップバッターは不利」は定説のようになっている。審査員が後々のことを考えて、最初はあまり高得点を出さないというわけである。ただ第1回優勝の中川家はトップバッターだった。しかし、その後トップバッターからの優勝パターンは途絶え、2023年の令和ロマンが久々にそれを達成して話題になった。 2008年のトップバッターはダイアン。いまや東京に進出してテレビでも売れっ子の彼らだが、このときは大阪を拠点にしていた。2007年も決勝進出し、実力は十分。だが上位3組による最終決戦には残念ながら進めなかった。 一方、敗者復活組のオードリーは9組目。つまり、トリである。 大井競馬場からテレビ朝日までの移動時間がかかるという理由はあるものの、敗者復活組は一度敗退したわけなので恵まれすぎと思われても仕方ない。公平を期すために、2017年からは笑神籤(えみくじ)でその都度出番が決まるシステムになった。 だが2008年はまだ、自動的に敗者復活組はトリ。そのことがオードリーの登場をよりドラマチックにしていた。敗者復活という新鮮なインパクトとトリという出番が醸し出す真打ち感という両方のおいしいとこ取りである。