野田駅ガード下の靴磨きおばちゃん「靴が違えば磨き方も違ってきます」/大阪
きょうはデートだから、靴を磨いてもらおうか―。ビジネスパーソンが列を作って靴磨きの順番を待つ風景を昭和の街角でよく見かけました。靴を磨いてもらうひとときは、ささやかなぜいたくで、多忙な暮らしのアクセント。ベテラン靴磨き職人の鮮やかな手さばきは、芸術の域に達していました。今も靴を磨き続ける女性の仕事場を訪ねてみましょう。
ピカピカの靴でふるさとに錦を飾る
JR大阪環状線野田駅。喫茶店や居酒屋が軒を並べるガード下の一隅が、西田典子さんの職場です。仕事は靴磨き兼靴の修理。JR西日本グループ会社のテナントとして営業しています。西田さんは勇退した夫の政司さんに代わって、11年前から店を切り盛りしてきました。 西田家の靴磨きの歴史は終戦直後までさかのぼることができます。1946年、政司さんが少年だったころ、野田駅前で靴磨き兼靴の修理業を営む叔父の幸夫さんに誘われ、時々店を手伝い始めたのがきっかけです。当時野田駅は今より少し西側にあり、近くの大阪市中央卸売市場本場へ行き交う市場関係者で、駅前はごった返していました。 「夫はお客さんから『まあちゃん』と呼ばれて、かわいがられました。地方から出てきて市場で働く皆さんが、正月をふるさとで迎えるため帰省する際、『ピカピカに磨いてな』と詰めかけて、忙しかったそうです」(西田典子さん) 一張羅の服に身を包み、よく磨き込んだ靴で、ふるさとに錦を飾る。昭和の日本人の晴れ姿でした。その後、野田駅の移転、高架化に伴い、政司さんは現在のガード下に店舗を構えます。政司さんは働き者でしたが体調を崩したため、西田さんが技術を教わり、店を引き継ぎました。
5回6回と靴墨を塗り重ねていく
靴磨きの手順を紹介しましょう。男性用ビジネスシューズの場合、まず、ぬれたタオルで靴の汚れを落とします。次に靴の底部(ソール)に専用インクを塗ります。さらに細いブラシで足を包み込む甲部(アッパー)に靴墨を塗り、すきまには靴墨を念入りにすり込みます。続いて大きいブラシで靴墨が全体に行き渡るようにブラッシング。休む間もなくタオルに靴墨をつけて丹念にこすって、ようやく靴墨塗りが完了します。 靴墨を塗り終えると、乾いたタオルで、から拭きします。古いタオルの方が毛羽立っていないので、靴を傷めません。最後の総仕上げには、秘密兵器のパンストが登場します。 「パンストはきめが細かいので、裏返して磨くと靴がよく光ります。夫から受け継いだ技術です」。靴の前後左右裏表の状態を確認しながら、流れるような動作で作業を進めていきます。 「靴が違えば靴の磨き方も違ってきます。靴墨は最低でも3、4回、表面にはげている部分などがあれば、5回、6回と塗り重ねます。お客さんに丁寧な仕事ですねと感心されるのが、うれしいですね」