倒産件数は過去最多。福祉・介護業界とコロナ禍
東京商工リサーチの調査結果によると、2020年の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は、118件となり、過去最多を更新する結果となりました。(※1) 休廃業・解散も2019年より増加し、「老人福祉・介護事業」は、大きな局面を迎えているといえるでしょう。 このような状況は、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行も大いに関係していると考えられ、2021年も続く可能性があります。 そこで本記事では、同調査結果などをもとに、介護事業所の倒産・休廃業件数や、事業所の種別、そして現状(背景)などを紐解いていきます。 ※1 東京商工リサーチ「2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況」
「倒産」の多くが、訪問・通所系、零細事業者
介護事業者のなかで、とくに倒産が増えているのは、訪問介護事業や通所・短期入所介護事業です。 「老人福祉・介護事業」の倒産のうち、訪問介護事業が47.4%を占める56件、通所・短期入所介護事業が32.2%を占める38件となっています。 また、従業員5人未満が66.9%にも及ぶ79件、負債1億円未満が79.6%にも及ぶ94件となり、小・零細事業者に打撃が及んでいることが判明しました。 「休廃業・解散」も前年より増加 2020年の1月から10月の間で、「老人福祉・介護事業」の休廃業・解散件数は、前年を2.7%上回る結果となりました。 細かく数字をみていくと、2019年の年間を通した休廃業・解散件数は、395件となっています。これに対して、2020年は10月時点で、406件とすでに前年を上回る件数となったのです。 過去最多件数となった2018年は、445件でしたが、2020年は11月・12月を統計に含めると、過去最多を更新し、年間600件ほどまでになることも推測されます。
福祉・介護業界の悲鳴と、その背景
ここからは、なぜ「老人福祉・介護事業」の倒産や休廃業・解散件数が増加しているのかを、見ていきましょう。 (1)他事業所との競争や人手不足など 現在、介護事業所は他社との競争を強いられる形となっています。 さまざまな介護事業所が存在し、利用者や家族が好きな事業所を選べるため、他社との違いを明確化したり、初期費用などの金額面で差をつけたりと、工夫をしなければなりません。 そのうえ、人手不足などの問題もあり、経営者は頭を悩ますことも多いはずです。 他社との競争や人材確保がうまくいかなければ、経営が困難となり、倒産や休廃業に追い込まれる事業所も少なくないでしょう。 (2)コロナ禍における、収支状況の悪化 ここからは、厚生労働省が公表した「新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所の経営への影響に関する調査研究事業」(※2)をもとに、COVID-19流行前と後の収支状況などにフォーカスしていきます。 <流行前と比較して収支の状況が悪くなった事業所> ・5月…47.5% ・10月…32.7% <流行前と比較して支出が増えているとした事業所> ・5月…54.7% ・10月…53.3% 調査結果をみてみると、新型コロナウイルスの流行によって、収支の状況が悪化したり、支出が増えていたりする事業所が、5割前後いることがわかりました。 収支の状況悪化や支出の増加は、経営者にとって大きな問題です。金銭的な課題が生じれば、経営難に陥り、倒産や休廃業をせざるを得ないでしょう。 (3)衛生用品等の費用増加 では、先述の厚生労働省の調査で、「増加している」と答えた事業所が最も多かった項目について見ていきます。 <衛生用品に係る費用が増加した事業所> ・5月…79.2% ・10月…74.5% 5月・10月ともに、衛生用品等に係る費用が増加した事業所は7割を超え、多くの事業所に影響が出ていることがわかります。 普段の介護業務でも使用するゴム手袋などに加え、マスクや消毒液・防護服など、感染対策をするうえで、欠かせないものが増えたためと考えられます。 とくに介護は、複数の人と接触するにあたり、こまめにゴム手袋などを交換する必要があります。必然的に、衛生用品等に係る費用は増加するでしょう。 (4)介護サービスの利用を控える傾向 COVID-19の流行によって、介護サービスの利用を控える人も増えました。倒産件数などをみても、とくに訪問・通所系で利用控えが顕著だといえるでしょう。 入所している利用者と違い、訪問・通所系は、在宅で家族やヘルパーの手を借りながら過ごせる人がほとんどです。要介護度が低い人も多く、家にヘルパーを入れる回数や、人と接する機会を減らしたいと考えた家庭が多かったと考えられます。 また、事業所側が、接触頻度を減らすために訪問回数を減らす、「密」を避けるため利用者の受け入れ人数を制限する、などの対応に追われたことも要因として考えられます。