手間ひまかけた昔ながらの味・栃餅 きれいな水と山の恵み、里の幸で特産品に 過疎高齢化進む綾部市上林
雑煮、焼き餅、鏡餅。日本の正月と切っても切れないお餅たち。 街のお餅屋さんがつく白餅とは別に、栃の実を使った栃餅を特産品にしている地域が、京都府綾部市にある。 奥上林の老富では、きれいな水と山の恵み、里の幸を使い、住民たちが心を合わせて、おいしい餅を作り続けている。
住民たちが心合わせて
ほんのりとした苦み、濃い風味がする栃餅。そのまま焼いてもおいしいが、甘いぜんざいに入れると絶品だとして人気が高い。市内の古屋と老富で作っていて、地域活性化グループ「水源の里老富」は、その一つ。2007年に組織され、地域の特産品づくりに励んできた。
水源の里の元気づくり
老富は、もう少し走れば福井県、由良川の支流・上林川の最も上流部分に位置する地域。過疎高齢化が進んだ限界集落だが、綾部ではこれを「水源の里」と呼び、全国に先駆けて条例を設けて活性化に取り組んできた。 地域を元気にするために、まず特産品をという話になり、目を付けたのが栃餅だった。昔は各家で作っていたが、近年は少なくなってきていた。 栃餅作りは女性部が手がけることになり、地区内の老富会館に餅つき機など、道具が一式据え付けられて商品化が始まった。
いくつもの工程を丁寧に
餅をつくのは機械に任せられても、主役の栃の実を用意するのは今も手間ひまかかる。 9月になったら男性たちが当番で山へ入り、栃の実を拾う。集めた実は1カ月かけて乾燥させた後、4、5日水に浸して皮をむきやすくし、湯で温めてから1つずつ皮をむく。次に川の清流で3、4日さらしてから、アク取り。灰と湯の分量を加減して1昼夜かけてアクを抜く。中心になって作業する酒井千恵子さん(81)は、「この作業が一番難しいです」と打ち明ける。 「クヌギやナラなど、よい木の灰やないと、あかんのです。灰が足りないと、いつまでたってもアクが抜けず実が使い物にならなくなって、多すぎると溶けてしまう」。その時の灰の様子を見ながらの微妙なさじ加減は、ベテランになった今でも苦労するという。