接着剤ではなく「熱」で修理。樹脂素材を知って最善の補修を目指そう
芯線骨の不要な部分はカット除去しよう
芯をめり込ませて樹脂が溶けているときに、スパチュラや細い鉄ベラを患部へ押し付けることで、芯の収まりがさらに良くなる。患部が冷えたら溶着ピンの不要な脚部分をニッパでカットしよう。片刃ニッパがあれば、飛び出した脚芯を根元からカットできて仕上がりが美しくなる。接合箇所にできた不要なバリは、ベルトサンダーで削り除去しよう。
ガッチリ締め付けても再発再破壊しない安心感
締め付け部分が割れていることに気が付いた直後から、修理を始めた今回。全工程の修理時間は概ね15分程度だった。作業自体は、とにかく簡単で、納得の強度を得られるのが嬉しい!! もちろん一般的なトルクで締め付けても、補強修理後の部品はビクともしなかった。このプラスチックリペアキットは、サンデーメカニックにとって実にありがたい修理機器と言えるだろう。 撮影協力/ストレート ────────── 【POINT】 ▶ポイント1・樹脂部品は経年変化劣化するものだが締め付けトルク順守は基本中の基本!! ▶ポイント2・樹脂溶着する際には、慌てず焦らずに患部同士を脱脂洗浄しよう ▶ポイント3・芯線骨を押し込んだら、その上から患部をはんだごてで押して、樹脂密度を高めて強度アップ!! ────────── 1960年代以前に生産されたバイクの多くは、金属製部品を多用していた。そんな当時から樹脂部品を積極的に使ってきたのが実用カテゴリーのモデルである。スーパーカブに代表される実用モデルには、樹脂製部品が数多く使われ、1969年にホンダがCB750を発売した頃からは、大型モデルでも樹脂部品の採用例が増えている。1970年代中頃には、ガソリンタンクを除く外装部品の多くに樹脂部品が採用されている(モトクロッサーはガソリンタンクもポリ製に変更されていった)。 樹脂部品の歴史を振り返ると1958年に三井化学が開発&商標登録した「ハイゼックス」(HDPE/高密度ポリエチレン)の登場以降、バイク用外装部品には金属よりも軽量で水にも強い樹脂部品が使われるようになった。その後、ABS樹脂の高性能化やPE/ポリエチレン樹脂やPP/ポリプロピレン樹脂の進化&コストダウンによって、1980年代以降はすべてのバイクに、大量の樹脂素材が使われるようになっている。 金属部品の修理以上に難しいのが樹脂部品の修理だろう。しかし、コツをつかみ高性能な修理機器を利用すれば、悩みを克服することもできる。ここで利用したプラスチックリペアキットも、代表的な修理機器のひとつである。樹脂部品は、経年劣化や紫外線によるオゾンクラックの影響で、極端に強度が低下してしまうもの。そうなると完璧な修理は難しい。しかし、せめて破断部分の形状を再生したいと考えた時にも、このリペアキットなら高品質な再生修理が可能になるはずだ。 一般修理なら僅か数分の作業時間で、高強度な修理が可能になる。走行振動などによる割れや樹脂部品の欠落、転倒に起因した樹脂部品の亀裂などなど、この機器を使うことで、高い強度を確保できる。また、壊れてしまう前に、樹脂部品の締め付け部などは、あらかじめ強度アップすることもできる。 溶着ピンに電気を流して温度を高め、樹脂を溶かしながらピンを内部に埋め込むのがこのリペアキット。補修部分の形状を考慮して溶着ピンのカタチをカスタマイズすることでも、より確実な修理が可能になるようだ。また、一般の電気ハンダごての場合は、実用温度に達するまでには数分間要するが、温度をコントロールできるボリューム調整によって、スイッチを押せば瞬時に溶着ピンを高温になる点もありがたい。AC100Vの家庭用電源さえあれば、現場での応急作業も容易にこなしてくれる機器なのだ。
たぐちかつみ