ネットカフェを“漂流“する妊婦がいる。最後まで母親一人で抱えてしまうことで起きる悲劇
「妊娠・出産は自己責任」というメッセージが脅かすもの
「そもそも、ゼロカ月ゼロ日死亡は児童虐待死の問題として語られることが多いけれど、根っこにあるのは『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』(性と生殖に関する健康と権利)の問題でもあるのではないかと考えています」 「誰もが、妊娠、中絶、出産の当事者になる可能性があるのに、性に関する様々な事柄について、十分な情報を元に考え自分自身で決める権利を持つことを、どれだけの人が認識しているでしょうか?必要な情報を得られること、必要な医療にかかることができることは、誰もが自分自身の性に関する健康を守るために大切なことです」 「思いがけない妊娠や出産でのゼロ歳ゼロカ月ゼロ日死亡を防ぐためには、緊急避妊も含めた避妊の手段を、必要な時に誰でも使える環境を整えることが重要になってきます」 ドイツなどでは、未成年であればピルの費用は全額健康保険で負担され無料で使用することができる。無料でなかったとしても、多くの国で、ピルはドラッグストアでの購入も可能であり、誰もがアクセスしやすい。だが、日本の現状は異なる。
「避妊方法のひとつに、低用量ピルを内服する方法があります。女性が主体的に選択できる避妊方法ですが、月経困難症や生理不順と診断された人が治療目的で使うピルには保険適用になるのに、避妊目的の場合は制度上は健康保険は使えず、全額自己負担ということになっています」 「避妊ができていなかった場合に妊娠を防ぐ、緊急避妊ピルも病院受診が必要で全額自費となり高価です」 誰もが等しく妊娠・出産に関して自己決定を行うことができない現状に中島さんは疑問を呈する。 「お金がなければ避妊ができない、その結果妊娠をしても今度は病院にかかることができない。妊娠は病気ではないかもしれないけれど、命に関わることなのにこれでいいのでしょうか」
ネットカフェからつながる妊婦も
足立区の事件では、母親は産後すぐにアルバイトを再開し、働いていたことが明らかとなっている。 産経新聞によると母親は出産後に薬局で粉ミルクや哺乳瓶を購入、ベビー服も着せていたという。 「お金がなくて病院に行けなかった結果、赤ちゃんが亡くなってしまう背景には、妊娠出産は自己責任として、経済的負担を個人に押し付けている、私たちの社会の在り方にも原因があるのではないでしょうか?」 予期しない妊娠、経済的困窮、社会的孤立、DVなどの様々な背景がある特定妊婦に対する初回受診料の支援を含む産科受診同行支援が埼玉県や千葉県、東京都でも始まっている。 だが、中島さんは「産科受診同行支援が始まったことは大きな一歩だけれど、窓口にたどり着けない人には支援は届きません」と指摘する。 「『妊娠は病気ではない』けれど母体はリスクと隣り合わせで妊娠期を過ごす。だからこそ、定期的な妊婦健診が必要ですが、現状は、費用負担ができない妊婦は健診を受けることさえできません」 フランスやドイツでは周産期に関わる諸費用を無償化することに成功している。だからこそ、こうした医療費や生活費に関する支援を手厚くすることは可能なのではないかと考えている。 「本当に、少子化対策をしようと考えているなら、また、ゼロ歳ゼロカ月ゼロ日の虐待死と言われているものを防ごうと考えているなら、全ての妊婦が、妊娠期から出産、そして産後まで切れ目なく、必要な医療や保健サービスを自己負担なく受けられるようにすることが必要だと思います」