なぜJR東海は、わざわざ奈良でキャンペーンを始めたのか
JR東海の奈良キャンペーン「いざいざ奈良」がスタートした。俳優の鈴木亮平さんを起用したCM「東大寺・ならまち編」は旅情をそそる。地元の観光関係者にも好評だ。 【奈良の大和牛など(13枚)】 ところで、JR東海の奈良キャンペーンは「うましうるわし奈良」として17年間も展開してきた。定着どころか伝統の域に達したキャンペーンだ。 それをなぜ変えたか。なぜ今なのか。その背景に「歴史だけじゃない奈良」の存在、ウィズコロナ、インバウンド低迷、ITによる旅づくりの進化などが見える。
「いざいざ奈良」の前に、なぜ、わざわざ奈良なのか
そもそも奈良はJR西日本のエリアだ。JR東海の路線も駅もない。東海道新幹線も北側の京都を通る。 なぜJR東海はわざわざ奈良でキャンペーンを始めたか。奈良市はリニア中央新幹線が通る見通しだから、その地ならしという見方もある。しかし「リニアは直接関係しない。東海道新幹線の集客キャンペーンだ」とJR東海は明言する。 歴史をたどれば、奈良キャンペーンは1993年の「いま、奈良にいます。」から始まり、2005年に「うましうるわし奈良」に変わった。その後、07年にJR東海がリニア中央新幹線を全額自社負担で建設すると発表した。当時の完成予定は名古屋まで25年、新大阪は45年。「東京~名古屋間で成功し、資金の目途が付いたら新大阪延伸着手」とした。 名古屋~新大阪間の正式ルートは決定していないし、奈良市付近を通ったとしても、52年前からキャンペーンを始める理由にはならない。大阪延伸を早めたいという関西政財界の志をくんで、国が財政投融資で支援し、新大阪延伸を37年まで繰り上げた。それでも44年もある。リニアのための観光キャンペーンはずっと先の話だ。 そこで振り出しに戻る。なぜJR東海が奈良の観光キャンペーンを手がけるか。「東海道新幹線の観光キャンペーン」とはどういうことか。 日本の大動脈ともいえる東海道新幹線にわずかながら隙があった。日中と休日需要の落ち込みだ。 コロナ禍以前の東海道新幹線は常に混んでいたという印象で、そろそろ乗客数も回復したように見える。だけど、JR発足時はそうでもなかった。東海道新幹線はビジネスマン御用達であり、利用客は長距離の出張族と短距離の通勤客が大半で、平日日中と休日は空いていた。 膨大なビジネス需要に応えるために、編成長を16両まで増やし、増発のために車両数も増やした。しかしそれが休日に余ってしまう。まるで大都市の通勤路線のような悩みを抱えていた。 通勤路線を持つ各社は休日需要拡大のために観光輸送と観光キャンペーンに力を入れる。JR東海は同じことを東海道新幹線で始めた。近年、常に乗車率が高まっている理由は、JR東海とJRグループ、旅行業界を巻き込んだ観光キャンペーンの成果である。 JR東海の観光キャンペーンは京都と奈良の知名度が突出しているけれども、ほかにも東京、横浜、静岡、愛知、飛騨高山、伊勢志摩などでキャンペーンを展開し、旅行商品と組んだツアーを販売している。 静岡県の観光に積極的に取り組めば、静岡県民の好感度も上がるだろうと思ったら、「いい旅、沸いてます。~伊豆・熱海・箱根~(21年)」「おんせん圏~伊豆・熱海・箱根~(22年)」などを実施していた。広告キャラクターとしてデヴィ夫人を起用して話題になっているという。 東京で伊豆・熱海・小田原のキャンペーンをしても、新幹線の利用は東京~小田原~熱海間と短いし、JR東日本の「踊り子号」に流れてしまいかねない。だから首都圏では目立たせていない。 東京観光キャンペーン「東京ブックマーク」は関西出張時にポスターやテレビCMを見かける。かなり大がかりに見えるけれど、名古屋と大阪を中心に展開するから、東京近郊在住の人は知らない。 なぜJR東海が管轄外の奈良キャンペーンをやるかというと、東京・名古屋方面から奈良を訪れる人々が東海道新幹線を使うからだ。奈良にJR東海の駅はなくても、奈良は東海道新幹線圏の沿線観光地だ。それでも京都・奈良キャンペーンは突出しているけれど、観光地の集客力、収容力と集客できる大都市を結んだ結果だ。 05年のキャンペーン開始から10年間のポスタービジュアル写真集。ひとつの区切りのようだけど「うましうるわし奈良」はこのあと7年も続く長寿企画となった。