生き残り懸け「10社合併」も タクシー業界で地殻変動
経費削減のため10社合併も
今年に入り、地方のタクシー会社の合併事例が業界内で注目されています。4月1日、熊本県内でタクシー事業を営む肥後交通グループ7社とミハナグループ3社が合併し、新会社「TaKuRoo(タクルー)」を設立しました。合併によりタクルーの車両数は県内事業者として最多の計330台となりました。 運行管理部門の一元化などによる業務効率化を通じて、今後3年で計5億円程度の費用削減を目指します。 両グループの経営陣が合併を検討し始めたのはおよそ3年前。売上が伸びず、事務所の維持費などの固定費が重くのしかかり、双方とも単独での生き残りは難しいとの認識で一致しました。協議していた矢先、コロナ禍に陥りました。両グループは、「いまこそ」と合併に踏み切りました。 タクルー設立を発表した3月29日後、北陸や関東、中国など各地のタクシー会社約10社が見学に訪れたそうです。タクルーの持株会社である地域交通ホールディングス(HD)の幹部は「やっぱり、みんな悩みは同じなんだと思いましたね」と振り返ります。
生き残りかけ、集約化
タクシー業界紙「TAXI JAPAN」の熊澤義一編集長(53)はタクルーの動きについて「合併のハードルは低くない」と語ります。どういうことでしょうか。 熊澤さんは「いままで競い合ってきた近隣の競合他社と一緒になるのはただでさえ抵抗感があるのに加え、長年守ってきた屋号もなくなりますから。今回の取り組みは『よく出来たスキームだ』ということで各地のタクシー会社から注目されていますが、裏を返せば、それだけ難しいということでもあります」と業界事情を解説します。 前述の幹部も合併にいたるまで「(先輩たちが築き上げてきた)歴史の重みを大切にしたい思い」があり、葛藤したと吐露しました。ただ、その思いよりも「次世代に公共交通としての役目をきちんと残したい、という思いの方が強かった」と言います。 熊澤さんは、「合併は難しい面もありますが、今後もタクシー会社が生き残っていくためには、たとえば撤退した路線バスの代わりに乗り合いタクシーを提案するなど、自治体と二人三脚で地域の足を支える取り組みも求められます」とも語ります。実際に地域交通HDでは自治体とタッグを組む構想があるそうです。 業務提携や合併による経費削減や経営効率化で生き残りを図る動きは他にも。 東京都内では、加盟タクシー会社の車両を無線配車する東京無線協同組合とチェッカーキャブ無線協同組合が4月1日、業務提携すると発表しました。合計車両数は約6800台となり、複数社が共同で無線配車を行うグループの中で営業区域内(東京23区と武蔵野市、三鷹市)最大となります。今後、車両の防犯灯や塗装を統一する他、ゆくゆくは配車業務の統合を目指します。日本交通などの大手事業者にタクシー事業を譲渡、あるいは大手グループの傘下に入るタクシー事業者もあります。長引くコロナ禍、タクシー業界内で生き残りを懸けた集約化の動きは、今後も進むでしょう。 (取材・文:具志堅浩二)