生き残り懸け「10社合併」も タクシー業界で地殻変動
新型コロナウイルス感染拡大以降、タクシー業界が苦境に立たされています。都道府県によって濃淡はあるものの、不要不急の外出自粛や飲食店の午後8時までの時短営業などによる街の人流の抑制はタクシー利用者の減少にもつながります。長引く業績低迷に耐えきれず、廃業する事業者もある中、業界内では合併や業務提携などで苦境を乗り切ろうという動きも出ています。
長引く低迷、新たな発想も
国内で初めて新型コロナウイルス感染者が確認されたのは2020年1月。翌2月には初の死亡者が出ました。政府は4月7日、東京、大阪、福岡など7都府県に1回目の緊急事態宣言を発出。16日には全国に対象区域を拡大しました。 タクシー需要はこの社会の動きと連動する部分があります。業界団体である全国ハイヤー・タクシー連合会の調査によると、全国の営業収入は20年2月時点では前年同月とほぼ同水準でした。それが、1回目の緊急事態宣言が出た4月には6割超減少。その後、秋ごろまでにかけては緩やかに改善傾向に向かったかに見えましたが、2回目の緊急事態宣言が出た2021年1月には再び4割超の減少となりました。 東京の大手タクシー事業者・日本交通グループでは、昨年4月の売上高が前年同月の3割程度にまで減少。その後、昨秋には7~8割程度まで戻ってきましたが、今年初めの2回目の緊急事態宣言後は再び下降しました。 同グループは今年4月半ばから高性能空気清浄機や飛沫防止シートなどを備えた“ニューノーマルタクシー”を導入。東京五輪開催までに都内の全タクシー約5000台のうちの半数以上をニューノーマルタクシーに切り替える予定です。 昨年4月には飲食物を宅配するサービスを開始。売上は全体の1%未満ですが、新しい価値提供の取り組みとして重視しているそうです。 「兵庫県のタクシー業界は小規模な会社も多く、コロナ禍のなかで廃業する経営者もじわじわ現れています」と話すのは、兵庫県タクシー協会の吉川紀興(のりおき)会長(77)。「乗務員も、給料がいつもより半分近く減っていて、ホンマに困ってる。ワクチン接種が終わるまでずっとこんな状況が続くんじゃないか」とも述べ、一朝一夕には状況改善が見込めない、との認識を示しました。 もっとも、タクシー需要の低迷は以前からあった課題でした。国土交通省自動車局によると、2020年に事業廃止届を出した法人タクシー事業者は全国で89社でした。前年の19年も84社あり、総数としてはあまり差がありませんが、20年の89社のうち29社がコロナ禍を廃業理由にあげており、厳しい経営状況に追い打ちを掛けたのは明らかです。