【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】俳優座『正義の人びと』
チラシとは観客が最初に目にする、その舞台への招待状のようなもの。小劇場から宝塚、2.5次元まで、幅広く演劇を見続けてきた中井美穂さんが気になるチラシを選び、それを生み出したアーティストやクリエイターへのインタビューを通じて、チラシと演劇との関係性を探ります。(ぴあアプリ「中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界」より転載) 【全ての画像】中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界「俳優座『正義の人びと』」 100年前のチラシを手にしたような感覚。古い字体に紙の端の変色、ドラマティックな写真で目を惹く俳優座『正義の人びと』のチラシ。1年前、「演劇チラシを作らせてください」という熱意ある電話からはじまったこのチラシづくりについて、デザイナーの若林伸重さん、俳優座の制作担当のイソノウツボさんに伺いました。 中井 俳優座さんでは、チラシは通常どなたが、どのようなかたちで作っていらっしゃいますか? イソノ 基本的には演出家と、チーフを担当する制作とが話し合って、演出家の要望を聞いてデザイナーや方向性を決めていきます。 中井 今回の演出は小笠原響さん。では、小笠原さんのご要望が? イソノ いえ、今回は私の希望でこの形になっています。実は、若林さんが俳優座に直接お電話をくださって、「ぜひ演劇のチラシを手掛けたいんです」と。その電話を受けたとき、私はまだ俳優座に入って2、3か月でした。でも1年後にはきっと自分がチーフを任されることもあるだろう、と思って詳しくお話を伺うために若林さんにお会いしました。 中井 そんな経緯が! イソノ はい。そのときに、これまで手掛けてこられた映画や展覧会のチラシを見せてくださって。それがとても魅力的だったので、もうこれは私がチーフ制作を務める最初の公演には、ぜひ若林さんにお願いしたいとずっと思っていました。今回、小笠原さんに意向を伺ったら「任せるよ」と言ってくださったので、念願かなって若林さんにお声がけすることになりました。 中井 最初にイソノさんと若林さんがお会いになったのはいつ頃のことですか? 若林 2019年の11月だったと思います。 中井 じゃあ、イソノさんが構想していたとおりちょうど1年。 若林 はい。どうしても演劇チラシの仕事をしてみたかったので、俳優座さんはじめ、新劇の劇団に連絡をしようと思いまして。まずは俳優座さんにご連絡したら会ってくださった。 中井 彦星と織姫のように「1年後に実を結びました」というお話だとは! かなり珍しい成り立ちですね。なぜ、演劇のチラシをやりたいと? 若林 語弊があるかもしれませんが、演劇のチラシって、演劇ファンの方たちのものだけで終わってしまう印象がありました。チラシがイメージ的なものにとどまってしまうから、つかみどころがない。そこをなんとかできないかなと思いまして。 中井 たしかに、具体的に作品が何もできていない段階で作ることもあって、ふわふわしたものになることも多いですよね。具体的に『正義の人びと』のチラシが動き始めたのはいつ頃ですか? イソノ 昨年11月の段階ではだいたいのキャスティング、演出家、作品のタッチまでは決まっていました。けれどやはりコロナ禍でストップしまして。通常であれば半年ほど前から仮チラシや本チラシをつくっていますが、今年は7月まで何もできず……。「お久しぶりです」と若林さんにご連絡できたのは夏頃でした。