メルセデスのミニバンを日本で選ぶ意味とは? アルファード&ヴェルファイアでは得られないもの
ルセデス・ベンツ「Vクラス」のマイナーチェンジモデルにサトータケシが試乗した。トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」などが人気を集める大型ミニバン市場で、Vクラスの優位性とは? 【写真を見る】86万円のオプションでゴージャスになった2列目シートとは? 764万円のVクラスの詳細(21枚)
日本独自のミニバン文化
世界に冠たるメルセデス・ベンツとはいえ、Vクラスが“ミニバン王国日本”の牙城を崩すのは難しいかもしれない。なぜなら日本のミニバンは、ほかのクルマとは異なる進化の過程を経た乗り物であると思うからだ。とはいえ、VクラスにはVクラスにしかない魅力があるのも事実である。 日本のミニバンの性格を物語る装備に、「コンビニフック」というものがある。文字通りコンビニのビニール袋を引っ掛けるためのフックで、ミニバンのベストセラーにはこれが1台に6つも付いている例がある。 ほかにも、ティッシュの箱がすっぽり収まる収納スペースやスマホ置き場など、細かいところまで考え抜かれている。 そしてコンビニフックもスマホ置き場も、使ってみると便利だったりする。もちろん、燃費や動力性能、高速での安定性も充分に配慮しているだろうけれど、「日本の家族はドライブに出かけると必ずコンビニに寄る」とか、「ティッシュは一家に一箱」といったことを徹底的に調べ抜いて開発しているのだ。 結果として日本のミニバンは独自の進化を遂げ、中国と東南アジアに一部の車種が輸出されているほかは、ほぼ国内専用モデルとなっている。 というわけで、日本独自のミニバンとVクラスには、おなじような箱型スタイルのクルマとはいえ大きな違いがあるのだ。 ただしVクラスにも、日本製ミニバンを研究したかのような進化が。まずは2列目シートに座ってみた。試乗車には、新たに追加された左右独立タイプの2列目シートを持つ「エクスクルーシブパッケージ」という86万円也のオプションが装備されていて、なかなかにゴージャスだ。 2列目シートは、驚くほど広い。しかも電動で各所を調整できるし、ヒーター&ベンチレーション機構まで備わる。2016年にデビューした現行Vクラスは、今回試乗した全長5140mmのロングのほかに4900mmの標準ボディ、そして受注生産となる5370mmのエクストラ・ロングをラインナップする。ロングのホイールベースは3200mmで、これはVクラス最大のライバルと思われるトヨタのアルファード/ヴェルファイアの3000mmを凌ぐ。 とはいえ、アルファード/ヴェルファイアの2列目シートが狭いと感じたことはなかったから、広いことがVクラスを選ぶ理由にはならないだろう。2列目シートの快適装備も、アルファード/ヴェルファイアのほうが豊富である。しかもトヨタは、ホイールベース3210mmのグランエースを投入して、ハイヤーやリムジンの需要をしっかり押さえている。ミニバン王国の守りは固い。 ここでエンジンをかけて、おっと思った。おっと思ったのは、最近のモデルでは珍しいディーゼルっぽい音と振動を感じたからだ。 本国のVクラスは、新しい2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボと9ATのパワートレーンに移行している。一方、日本仕様は従来からの2.1リッター直列4気筒ディーゼルターボと7ATの組み合わせのままだ。その理由は不明であるけれど、最新のディーゼルの滑らかさに慣れた身には、いささか古さを感じる。 走り出すと、後席に座っていてもびしっと引き締まった乗り心地であることがわかる。乗り心地が硬いというほどではないけれど、荒れた路面ではコツコツという直接的な突き上げを感じる。 ただし、おもてなし系の装備は日本のミニバンに負けていない。前述のとおり電動でリクライニングするシートにはオットマンも備わり、真夏日だったのでシートのベンチレーション機能がうれしい。アルファード/ヴェルファイアにはないマッサージ機能も悪くない。 そして高速道路に上がると、印象は一変した。速度域が上がるにつれて突き上げを感じなくなり、フラットな姿勢を保つ美点が強調されるようになる。 一般道と高速道路でここまで乗り心地が変わるなんて昔のドイツ車みたいだ、と思った。 この日は2名乗車だったけれど、昔のドイツ車は1名乗車よりも定員乗車のほうが、劇的に乗り心地はよくなったから、大人5人とか6人で乗るとまた違った印象を受けるかもしれない。