希少疾患の治療薬、世界初の技術で開発中 起業と研究の二刀流に挑む熊本大の准教授
――大学発のスタートアップが増えている印象です。ご自身の会社もその一つですが、こうした動きをどうみていますか。 大学発のスタートアップというのは、僕は必要だと思っています。ピッチコンテストで審査員からよく聞かれる質問の一つに「既存技術との違いは何ですか」というものがあります。実は大学の研究者って、むしろそれしか考えてないんです。 そもそも研究成果を論文にしようとするとき、ほかの技術はこうだけど、我々の技術はこうだ、っていうのを考えるんですね。つまり、大学の研究者は「0から1を作る」人たちなんです。 一方で、課題があると思うのはコミュニケーション能力です。既存にはない新しい技術や手法、プロダクトを生み出したことへの思い入れが強いがゆえに、「なぜ世の中は理解してくれないのだろう」と考えてしまうことがあります。実際、僕もそうでした。何回プレゼンしても誰も見向きもしてくれない。審査員からたくさん無視され、嫌なことを言われるわけです。 そういった経験から、ピッチコンテストの心構えを聞かれたとき、「怒らないこと」と言うようにしています。審査員も嫌な気持ちにしようと言っているわけではなくて、彼らは彼らなりにたくさんある案件から光り輝く可能性を見つけたいわけです。10分説明しなきゃわからないのだとしたら、それを1分で説明できるようにしてよっていうのもあると思います。それをこちらも理解しないといけなくて。 僕の場合、九州予選では全く専門用語を使っていませんでした。確かRNAという言葉すら使ってなかったんじゃないですかね。専門用語を使えば、聞いている人は「何やら難しいことを言っているな」というマインドになってしまいます。
――大学側の支援体制など、スタートアップを取り巻く「エコシステム」はどうでしょう? 最近はどんどん充実してきたなと思います。大学内での研究に対する支援もそうですが、例えば地方自治体による支援も増えています。僕たちが起業したのは2021年ですが、まだ3年しかたっていないのに、今の方が圧倒的にいい環境です。 背景には、支援のための仕組みや制度が整ってきたというのもありますが、やっぱり人々のマインドの変化が大きいと思います。 例えば海外では、AmazonやAppleといった、僕らが子どもの頃には存在しなかった新しい企業がどんどん誕生しています。これに対し、日本では昔からあった会社がいまだに頑張っている。それで僕たちの暮らしはハッピーなのかと問われれば、そうでもない。そういった意味での閉塞感(へいそくかん)があって、何とかしたいと考える人たちが少しずつ増えている気がします。
朝日新聞社