希少疾患の治療薬、世界初の技術で開発中 起業と研究の二刀流に挑む熊本大の准教授
――研究者と企業幹部の「二足のわらじ」を履くことについてはどう感じていますか。 自分でまいた種なので、責任を持ってこの事業を最後まで見届ける、ちゃんとコミットすることが大事だと考えています。 でもそれは大学での研究者としての業務をいい加減にしていいということではまったくなく、自分でしっかりマネジメントしないといけないなとは思いますね。
――勝田さんも谷川さんも希少疾患の患者を救いたいという熱い思いが伝わってきます。勝田さんは実際に患者と会うなどしているのでしょうか。 実は一度もないんです。感情が入りすぎると冷静に判断できなくなる気がしていて。実験などで少しでもいい結果が出ると、「これは本当にいける」と前のめりになって、その結果、何かミスが出たら、それこそ患者も自分たちも大変なことになるので。 そういうことがありうるので、うちの研究室はできるだけ自動化を進めたいなと思っていて、一部はすでに実現しています。 例えばウェスタンブロットという実験があって、これはたんぱく質の増減を調べるものなのですが、論文の捏造で最も多い実験の一つとされていて。たとえ悪意がなかったとしても、少しでもいいデータを出したいという気持ちが実験の操作に伝わっちゃうんですよね。無意識のうちにぐっと強く押してしまうとか。この実験について、うちの研究室では専用の機器を導入して完全に自動化しています。 もちろん、患者の方々とはお話ししてみたいという気持ちはあります。でも今はまだ、そのタイミングではないと思っています。
――ピッチコンテストにたくさん出場していますが、何か得るものはありますか。 大いにあります。例えばスタートアップワールドカップ九州予選では、ほかの方が宇宙関連の事業についてプレゼンしていました。そのとき、僕らの技術を宇宙で使えるんだろうかとか、想像しました。地球上でやっているような化合物の合成が宇宙空間でもできるのだろうかとか。 例えば本当に火星に移住するという未来が来たとして、移住者が大きな病気をした場合、「地球から薬が届くのを待ってください」ってなったとき、待てないじゃないですか。そうなったときのシミュレーションをしていました。 ただ、このようなピッチコンテストに出場することが好きか嫌いかで言うと、あまり好きではないんですね。 というのも、例えば九州予選でも出てきた、宇宙に行こうとするベンチャー企業や物流のDXに取り組む企業、画期的な手法でインフラのさびを除去する企業とで優劣はつけられないと思うんです。色んな社会課題があって、どれも解決すれば人々が幸せになります。そう考えると、どの会社もどの技術も、本当にすばらしいです。 逆に僕らの技術は、本来なら使われない方がいいわけです。誰だって希少疾患になりたくはないですからね。