「筋トレ世界の闇」をミステリ小説に…江戸川乱歩賞受賞・日野瑛太郎氏が明かす著書フェイク・マッスル』の舞台裏
日野瑛太郎 Eitaro Hinoひの・えいたろう/'85年、茨城県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。第67回、第68回、第69回江戸川乱歩賞最終候補。'24年に第70回江戸川乱歩賞を受賞した「フェイク・マッスル」でデビュー 【イラスト】めちゃくちゃ分かりやすい「肩のらくらくストレッチ」
物語のカギは「筋肉」
―第70回の江戸川乱歩賞受賞の本作は、筋トレやボディビルといったマッチョな世界が舞台になっています。 公募文学賞として伝統のある江戸川乱歩賞をこの節目回でタイミングよく受賞できたこと、大変うれしく思っています。5回目の応募での受賞でした。1回目は二次選考落ち、2回目からは最終選考に残りましたが受賞は叶わず、今回ようやくいただけました。 過去の応募作では誘拐や立てこもりの劇場型犯罪を扱っていたのですが、今回は筋トレの世界の闇である薬物のドーピング問題を中心に据えることにしました。きっかけは、僕自身の個人的な体験です。現在の筋トレブームがそうであるように、僕もみなさんと同じようにコロナ禍のステイホームで運動不足になり、トレーニングを始めました。 筋トレはやってみるとどんどんとレベルアップしたくなり、知識もみるみる増えます。面白いんです。そのうち「あの人はステロイド(筋肉増強剤)を使って体を作ってる」なんてゴシップめいた話も耳に入ってきます。ふと、「これはミステリ小説になるのでは」と思ったのが、この応募作執筆の始まりでした。 ―物語を引っ張る謎が「筋肉の増強」だなんて、仕掛けが意外すぎます。 物語の発端は、人気アイドルの大峰颯太がたった3ヵ月のトレーニングでボディビル大会に入賞したというニュースです。そこから「そんな短期間であの筋肉はできない」とドーピング疑惑が持ち上がって、ネットは炎上します。この「3ヵ月でボディメイクは可能か」というのは、結末まで謎であり続けるでしょう。大峰は「自分は誓ってナチュラル」と疑惑を完全否定するだけでなく、堂々とパーソナルジムをオープンさせるのです。 ―芸能ゴシップとして話題が盛り上がったところに週刊誌記者の松村健太郎が登場し、ジムへの潜入取材を試みます。 謎を解いていく主人公が松村なのですが、入社2年目の彼はもともと文芸志望で今の仕事に腐っています。モチベーションが上がらない。ヒョロヒョロの彼ですが、職務上の義務で筋トレを始めてみると、これがやっぱりハマっていくんですね。