27人の女性たちが力強い声で語る「人生の信念」を聞く(レビュー)
この本の中で最年長の笹本恒子さんは、日本で女性初の報道写真家として道を切り拓いた方。女性が働くこと自体が珍しかった太平洋戦争開戦前、まずは服装から、仕事用にキュロットスカートとパンツをあつらえるところから始めたという。以来80年余り、今、女性の職域は広がり多様な生き方を選択できる時代になった。しかもそれぞれの道の第一線で女性が活躍する時代。ここに登場する27人の物語を読むとき、ひたむきに生きる女性たちが、自らの手で、そんな時代をひきよせてきたのだと気づかされる。 人生で最も大切なことを学んだ「あの時」とは、いつのどんなとき? 岡野民さんによる聞き書きの文章からは、それぞれの人がじっと自分の内側を見つめて「あの時」をふりかえりながら語る肉声が聞こえてくる。各々の個性溢れる声、どれも力強い声だ。彼女たちは、人生のある体験の中で感じたこと、考えたことを明確な言葉にして、忘れずにいる。その言葉は歳月とともに更に彫琢されて、ほとんど哲学のような信念になって、その人生を支えている。 私がハッとした例のひとつは、私と同い年で同時代を生きた中山千夏さんの言葉。 「私は、人生に『女性差別問題』という軸を持つことで、ずっと生きやすくなりました」 私は、中山さんほど真剣にウーマンリブなどの活動をしたわけではないが、似た体験の覚えがある。男社会で長く生き、年取った女性アナウンサーとして味わった悔しさが、その後の私の生き方を変えてくれたのだ。中山さんが「差別を減らす仕事をしようと、人生の軸ができたとき生きやすくなった」というように、私も、差別のない、より良い世の中にするための放送のあり方を考えることで、生気をとり戻すことができた。放送という職業の意味が深く胸に落ち、仕事が楽しくなった。 だから私にとっての「あの時」は、組織の理不尽に押しつぶされそうになってもがいていたあの時期だったことになる。人はどん底でこそ学ぶことができるものらしい。「放送人の志」などという言葉も臆せず使おうと覚悟を決めたのもあの時だった。 その意味で国連の中満泉さんの言葉にも、深い共感を覚えた。 「仕事を続ける中で自分を支えてきたのは、『世の中を少しでもよいところにしたい』という思いです」。近頃、あまり聞けない直球の言葉。その素直さに心動かされるのは私だけだろうか。中満さんには、こんな言葉で世界平和に貢献していってほしい。 [レビュアー]山根基世(アナウンサー) やまね・もとよ1948年山口県生まれ。71年NHKにアナウンサーとして入局。2007年の定年退職後も様々な番組で朗読やナレーションを担当する傍ら、地域作りと言葉教育を組み合わせた活動に従事。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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