「婚姻って何?」 ――同性婚訴訟で違憲判決、 原告の二人が問う結婚のあり方
国会で議論をするとき、同性カップルについて婚姻とは別の制度を作って区分するようでは意味がないと加藤氏は言い添える。ひとつ参考になるのが、1950年代の米国の裁判。当時、黒人専用の学校と白人専用の学校があった。予算も施設の規模も教育内容も同じ。それでも黒人と白人を分ける地域があった。「分離すれども平等」という名目で維持されていたが、連邦最高裁判所はそれを違憲と判断した。 「結局、分けることで、黒人は白人より劣ったものという偏見や不名誉を押しつけていると。同性カップルについて婚姻とは別の制度を作った場合もまったく同じことが言えると思います」 現在、全国の100を超える自治体でパートナーシップ制度が導入されている。同制度は同性カップルに婚姻と同等の関係であることを自治体が承認するものだ。だが、パートナーシップ制度を国の制度にして法的効果を認めたとしても、やはり差別にほかならないと加藤氏は指摘する。今後の同性婚については、民法や戸籍法といった本来の法制度を改正すべきだという。そしてそれらを立法府に働きかけるために、弁護団は控訴した。 「今回の判決だけでは一例にとどまってしまう可能性がある。政府や立法府にプレッシャーをかけるには、やはり上級審での判断が必要。進行中の他の裁判でも違憲判決が出るように働きかけたいと思っています」
若い世代のために自分たちが変えていく
帯広市の集合住宅。たかしさんは部屋のあちこちを指さしながら、17年間の同居生活でほとんどのものは共同所有になっていると笑う。 「家電も食器もほとんど共同なんで、もうこれを分けることはできない。それって結婚生活で起きていることと同じなんじゃないですかね。この生活そのものが結婚を意味しているように思うんです」 国見さんは、今回の訴訟が結婚そのものを問い直すことでもあったように感じている。 「要は、『婚姻って何?』ってことだと思うんです。好きな人同士が一緒にいて共同生活を送る。結局、二人で一つの単位であり、共同生活を法的に保証するのが婚姻制度なんじゃないかと。だとすると、その意味をもう一度多くの人が考えてほしいと思うんですね」 「僕らより上の世代には同性愛者であるのを隠すために、不本意に異性婚を選ぶ人もいた。僕が若い頃は、『同性愛者には未来がない』と言われたこともある。理解が広がってきた現在でも若い世代で苦しんでいる人がいる。そういう次の世代のためにも、自分たちが現状を変えていかないといけないんだと思っています」
--- 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。