学校で「いい先生」が正規職員になれない理不尽、現場の評価と一致しない採用試験の評価
公立学校では非正規雇用の教員が増え続けている。その数は全国の公立学校で5~6人に1人に上る。教師という職業に、いったい何が起きているのか。 特集「『非正規化』する教師」の第4回は、実力のある非正規教員が正規教員になれない背景に迫る。(過去の記事はこちら) 【漫画】小4で娘が不登校になった親が知った衝撃の事態 「なぜ、あの人が正規教員でないのか」 人づてに耳にした言葉に、中部地方で高校の理科教員をする武田晴久さん(仮名)は複雑な思いをした。 武田さんは、今年で非正規教員13年目を迎える。武田さんが周囲から「正規教員」でないことに驚かれるのは、高校の教師として特筆すべき能力と実績があるからだ。
一つは、大学・大学院時代を通じて深めてきた生物・地学領域での専門性だ。大学院を卒業後も博物館でボランティアをするなど、この領域への探究心は強く、自ら学んで得た深い知見は日々の授業にも生かされている。もう一つは、部活動顧問として全国優勝を成し遂げたことだ。理科教員ならではの知識とスキルを生かし、ある競技でチームを頂点に導いた。 ■「一般企業ならとうに採用している」 そんな武田さんに対して、部活動で付き合いのある会社経営者は冒頭のように、「なぜ、あの人が正規教員でないのか。一般企業ならとうに採用している」と話したという。
「他の先生から聞いた話ですが、うれしかった反面、自分の実績と立場の釣り合いが取れていないことに複雑な思いもしました」(武田さん) 大学院を卒業後に教員採用試験を受けたが、当時は倍率が10倍をはるかに超えていたこともあって合格することができなかった。その後も毎年、採用試験は受けているが、あと一歩のところで合格ラインには届いていない。その結果、現在に至るまで臨時的任用教員(常勤講師)として教壇に立ち続けている。
教員として10年以上のキャリアのある武田さんは、周囲から一人前と認められ、「仕事ができる人」と言われることもある。 民間企業の場合、非正規社員として実績を残せば、それが職場の評価となって正規社員に登用されることがある。加えて、有期労働契約が通算5年を超えた場合、本人が希望すれば期間の定めのない労働契約に切り替えられる、いわゆる「無期転換ルール」がある。 そもそも、昨今は中小企業を中心に人手不足が著しく、人材の確保という側面から、非正規社員の正規化を図る企業も少なくない。そうしたことから、民間企業の非正規率は2019年の38.3%をピークに2年連続で減少するなど、状況はわずかながら改善に向かっている(総務省「労働力調査」)。