安全保障政策をめぐって亀裂を深める新聞 ~「読売、産経、日経新聞」対「朝日、毎日、東京新聞」
読売、産経、日経はいっさい報じず
日本が戦争をした先の大戦で、もっとも悲惨だったことの一つとして広島、長崎への原爆投下があげられる。長崎市は8月9日、市内の平和公園で例年通り平和祈念式典を開催。在京紙は式典の模様を大きく報じた。 東京新聞9日夕刊の1面が目を引いた。ふつうなら社会面で取り上げる被爆者代表のスピーチをトップ扱いにして掲載。見出しを「『憲法を踏みにじる暴挙』/長崎、集団的自衛権に怒り」とし、「出席した安倍晋三首相の目の前で、被爆者代表の城台美弥子さん(75)が『憲法を踏みにじる暴挙』と集団的自衛権の行使容認を痛烈に批判した」と前文に書いた。そして本文として城台さんのスピーチ「平和の誓い」の全文を掲載した。 このスタイルは、東京が独自にすすめる「論点明示報道」といわれる新しい報道手法だ。 スピーチには隠されたエピソードもあった。東京8月10日朝刊によると、「日本国憲法を踏みにじられた」のくだりは用意したスピーチ原稿には書いておらず、読み上げる直前にこう訴えようと決意したそうだ。「待機席で登壇を待っている時、来賓席に座る安倍晋三首相ら政治家たちの姿が目に入ったのがきっかけだった」という。 原稿になかった「今、進められている集団的自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です」と訴えた城台さんのスピーチを聞き、共感した人も少なくないのではないか。 しかし、これを9日夕刊で報じたのは、在京紙では東京と毎日新聞だけだった。朝日新聞は10日朝刊でフォローしたが、読売、産経、日経新聞はいっさい報じなかった。 事実さえ伝えなかった、この3紙の報道スタンスをどのように考えたらいいのだろうか。(2014年9月28日) ※この批評は東京本社発行の最終版を基にしています。 -------- 徳山喜雄(とくやま・よしお) 全国紙記者。近著に『安倍官邸と報道―「二極化する報道」の危機』(集英社新書)。