〈日本の再エネ支えるベトナム林業〉森林回復と両立させる意外な経営手法と、背後に潜む問題点
短い栽培サイクル
伐期、つまり植えてから収穫(伐採)までの期間が、なんと3~6年だというのだ。とくに木質ペレット原料となる材は3年くらいで収穫する。いくら成長の早い樹種でも、太さは直径10センチに届かないだろう。 農家はさらに栽培サイクルを短くする傾向にある。収益を早く得たいからだが、もう一つの理由はリスクを抑えるためという。 高密度に植えて細いまま背丈を高く伸ばすアカシアやユーカリは、強風が吹くと倒れやすい。山間部では野焼きも多くて、山火事に遇う恐れも増す。そこで育てる期間を短くしてリスク回避したい思いがある。 アカシアの木は、太くなるまで育てれば硬くなり家具や建築材にも使えるが、細いものは製紙チップや木質ペレットの原料用だ。木材を砕いて小片にするから太さのほか曲がりや傷を気にしないで済む。それに伐採や搬出も楽である。
3年で収穫となれば、農作物の感覚なのだろう。経営も、大面積の林地を所有して行う林業というよりは、農家が自分の農地に植える小規模生産者が多いという。それだけに農作物扱いなのだろう。森づくりという意識は低いのではないか。 だが、これほど早いサイクルで収穫を続けると、土壌の劣化が進む。成長の早い木は養分の吸収も強いのが通常だ。 大企業の林地の場合は施肥もするが、資金力のない小規模農民は、通常施肥を行わない。実際、成長速度の鈍化が進み収量の減少につながっているそうだ。10年前より同期間の木材収穫量は3分の2に落ちたという声もある。 加えて病害虫の発生が増えているらしい。すでにアカシア林の一部で、根腐病や褐色根腐病や赤色根腐病が発生して枯れるケースも起きている。
持続性はあるのか
このような事情を知ると、木質ペレット生産が天然林を破壊している心配はなくなっても、別の不安がある。日本が輸入する木質ペレットは、ベトナムの生産量の約6割に達するというが、持続的に安定的な輸入が今後も続けられるのか。 さらに心配なのは、合法性だ。森林率は高めているが、ベトナムの天然林は減少・劣化傾向が続く。やはり違法な伐採が進んでいることが想像されるだろう。さらにペレット工場の操業時、悪臭と粉塵、騒音を発生させて近隣住民から抗議を受けるケースもある。なかには操業停止に追い込まれた工場も出ているという。 日本に限らずバイオマス発電燃料には、各国の森林法規を守って調達するほか、環境に配慮した経営であると示す森林認証を取得することを条件とするところが多い。しかしベトナムの木質ペレット最大手AVP社などは、22年10月に国際的な森林認証団体FSCの認証を偽装していることが指摘され、3年半の認証停止処分を受けた。結局、約1年間で解除されたのだが、環境破壊的に生産された木質ペレットが出回っている可能性が高いと思わざるを得ない。 根本的問題として、欧米の研究機関から木質バイオマスの燃焼時の二酸化炭素(CO2) 排出量は、石炭火力より多いと報告されていることも指摘しておかねばならない。とくに木質ペレットは製造と遠距離運搬にかかるエネルギー消費量が高いとされる。これでは気候変動対策としての脱炭素にバイオマス発電は寄与しないことになる。