なぜWBC世界戦で拳四朗はファイトスタイルを180度変え矢吹正道にKOでリベンジを果たすことができたのか…完成への苦悩と覚悟
プロボクシングのWBC世界ライトフライ級タイトルマッチが19日、京都の京都市体育館で行われ、前王者の寺地拳四朗(30、BMB)が王者の矢吹正道(29、緑)を3回1分11秒に右ストレートの一撃で倒してKOでベルト奪還に成功した。両者は昨年9月に同場所で対戦。寺地が10回TKO負けで9度目の防衛に失敗したが、「故意バッティングがあったのではないか」との質問状をJBCに提出。訴えは認められなかったが、報告を受けたWBCが異例のダイレクトリマッチを指令。寺地はリベンジに向けてボクシングスタイルをアウトボクサーからファイターに180度変えるという賭けに出て約6か月ぶりに王座を取り戻した。今後は、このベルトの防衛戦を果たした後に他団体との統一戦、あるいは2階級制覇へと舵を切ることになりそうだ。
「世界戦で初めて勝ったときより幸せ」
負けを知った男はこれほどまでに強くなるのか。 「序盤からいくつもりだった」 ゴングと同時にこれまでと180度ボクシングスタイルを変貌させた拳四朗が激しいプレッシャーをかけて矢吹に襲いかかった。重心は後ろにおき、ややアップライトに構えてフットワークを生かして左ジャブから距離をとって戦うこれまでの拳四朗の姿はそこにはなかった。左ガードを高く上げ、重心を深く落とし、ほぼベタ足の前のめりのクラウチングに近いファイタースタイルで体をふって前進。しかも、左ジャブに続けて必ず右ストレートを積極的に打ちこむのだ。 なにより驚いたのは矢吹だった。 「あんなインファイトしてくると全然予想もしなかった。戦い方をガラっと変えてきたんで面食らった部分がある。相手がジャブ主体で足を使ってくる練習をしていたんだけど…。自分がプレスをかける練習しかしてないんで逆に攻めてプレッシャーをかけられてちょっとびっくりした。どうしようかなと」 1ラウンドは、2人のジャッジが下がりながらも出し続けた矢吹の左ジャブを支持していたが、2ラウンドもリングを支配したのは拳四朗だった。右ストレートで追い詰め、このラウンドからはボディも絡めて、「弱っているかな」とフィニッシュの匂いをかぎとっていた。矢吹が反撃してもブロックとパーリングでパンチを払って前へ出続けた。 3ラウンドに強烈な左ボディを一発。矢吹の動きが止まる。矢吹が下がりながらパンチを出そうとしたが、そこに「体の重心が浮かない、軸がぶれない」を貫いた新スタイル効果でパワフルになった鮮烈の右ストレートを叩き込んだ。 「相手が下がって重心が浮いたところ。利くパンチ。手応えがあった」 急所のアゴをピンポイントでとらえると矢吹は背中から落ちた。ゴロンと寝返りをうち、なんとか立ち上がったが、もう染谷レフェリーは10カウントを終えていた。あまりにも劇的なKO勝利。3800人のファンは総立ちとなり、キャンバスにうずくまって右手を何度も叩きつけて号泣した拳四朗の姿が後部席のファンの視線から消えてしまった。 「あーーうれしい」 「あーー良かったあ」 マイクを持った拳四朗は溜息と絶叫。 プレスルームでの会見でも「幸せのひとこと。うれしすぎる。世界戦で初めて勝ったときよりも嬉しい」と拳四朗スマイルが全開だった。 「自分が強いという自信を取り戻せた」という。