量子コンピュータのエラーを前提とした計算手法を開発、実用化に向けた“一歩”
グリッドは2020年12月17日、量子コンピュータの中でもノイズの影響を受けやすい「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer)」デバイス上で、実用的な問題を解くのに有効なアルゴリズム「ハイブリッド量子古典動的計画法(QDP)」を開発したと発表した。 AI(人工知能)技術の1つである強化学習の計算手法にQDPを用いて、その有用性を証明した。NISQデバイスのノイズの多さを前提とした計算手法であり、開発に成功したのは「世界初」(グリッド)の事例だという。
量子ゲート方式が抱える2つの開発課題
量子コンピュータには「量子ゲート方式」と「量子イジングマシン方式」の2種類がある。この内、将来的に主流になると目され、世界的に注目されているのが量子ゲート方式だ。 しかし、量子ゲート方式での量子コンピュータ開発には、いくつかの技術的な課題がある。グリッド 代表取締役の曽我部完氏は、その代表的な課題として「量子エラーの存在」と「量子回路作成の困難さ」の2点を挙げる。 量子エラーは、現状、量子コンピュータのハードウェアに不完全さが残ることから生じるものだ。量子回路内でのゲートの反転時や量子ビットの位相反転時、量子測定する際にエラーが生じ、計算結果の正確性を損なってしまう。このため、正しい計算がハードウェアから取り出せなくなる。NISQデバイスにおける“ノイズ”とは、この量子エラーを指す。 もう1つが回路作成の困難さである。NISQデバイスの場合、複雑な回路を作ってしまうと、その過程でエラーが増幅されてしまう。また、量子コンピュータには計算結果を保存しておくメモリが無い。このため、現状では古典コンピュータとハイブリッドで運用し、量子コンピュータの計算結果を古典コンピュータ上に記憶させざるを得ない。 こうした課題を指摘した上で、曽我部氏は「実用化に耐え得る量子コンピュータを作成するには、アルゴリズムを相当工夫して、NISQデバイスでも求める答えを得られるようにしなければならない」と説明する。これを踏まえてグリッドが開発したアルゴリズムがQDPである。